阪神対巨人 9回表巨人無死、代打阿部慎之助は空振り三振に倒れ甲子園のファンの大声援に応える(撮影・垰建太)
阪神対巨人 9回表巨人無死、代打阿部慎之助は空振り三振に倒れ甲子園のファンの大声援に応える(撮影・垰建太)

今季限りで引退する阿部慎之助が三振に倒れ、ベンチに下がる瞬間だ。巨人ファンだけでなく虎党からも大きな拍手が送られた。「くたばれ読売」などと“特攻服”に刺しゅうしている虎党もいるがライバルあっての阪神。そこはリスペクトしないとな、と思う。

03年もそうだった。闘将・星野仙一率いる阪神がぶっちぎりでリーグ優勝。巨人の指揮を執っていた原辰徳はそのシーズンでの辞任が決まっていた。同年10月7日。最後のTG戦が終わった後、星野が原にねぎらいの花束を渡した。

「絶対にくじけるな! 戻ってこい!」。がっしり肩を抱いて伝える闘将の言葉に原は涙を流した。その光景に両軍のファンも大きな声援を送った。敵味方を超えた場面。そのシーンを昨日のように覚えているのでこの日の試合前、敵将にその話をしてみた。

「21日に優勝を決めたとき『年を取ると涙腺が緩くなって』と言ってましたけど。03年のあのときも泣いてましたよね?」

ぶしつけな質問だったが原は笑って「ああ。そうだったかな~」と言った。本人にすればいい思い出ではないかもしれないが虎党には忘れられない姿である。

そんな原にしてもラクなシーズンではなかった。雑談の中で、こんなエピソードも漏らした。

「9月に入ってからはね。よし! やったるぞ! という感じだったけど。6月から7月にかけてかな。体調が良くなくてね。夜寝るときになんだか熱っぽくなるし、朝も目覚めが悪くてね。やはりペナントレースは長いよ」

名将とはいえ、復帰したそのシーズンに勝つのは、やはり普通ではない。強く、自信にあふれていても苦しみながらの戦いだったことは想像に難くない。

その巨人との今季最終戦。阪神は勝った。4月の最初の対戦、東京ドームで3連敗を喫してから苦手にし続けた対戦結果は10勝15敗で終わった。来季は王者・巨人に対し、この数字を上回る戦いをしなければ上位進出を目指すのは難しいのは言うまでもない。

だが。待て。今年、まだ巨人と戦うチャンスは残っている。残り3試合全勝して3位に滑り込み、クライマックスシリーズを勝ち抜けば。東京ドームで再び、巨人と戦える。限りなく少ない可能性だが、それがある限り、やるしかない。その戦いが来季につながるはずだ。(敬称略)

03年10月7日、星野監督(右)に声をかけられ、大粒の涙を流す原辰徳監督
03年10月7日、星野監督(右)に声をかけられ、大粒の涙を流す原辰徳監督