「あ、赤パンのおかげっ!」。紅潮した顔で引き上げる指揮官・矢野燿大に「お疲れさま」と声を掛けた直後だった。

いったん通り過ぎた矢野が立ち止まり、くるりとこちらを振り返った。そしてそう叫びながら右手でハイタッチしてきた。無意識にたたき返すと「パチン」と音がした。

この日、日刊スポーツ大阪版に「矢野監督 赤パン」という大見出しがあった。矢野は験を担いで縁起の良いとされる赤いパンツをはいているという。そうか。それならば。スーツ、クツはもちろん、シャツ、さらにはカバンも黒だが下着のパンツだけは赤に履き替えて横浜入りした。

試合前練習が終わった後に「オレもこれ」と矢野にチラ見させながら言った。面倒くさいのか照れたのかうっとうしいのか「もうエエって!」。

そのときは笑って終わったが試合後、虎番キャップの囲み取材を終えた後にとった冒頭の行動。信じられないような逆転勝利を思えば無理もない。験担ぎもいいものだ。

もちろん赤いパンツだけで試合に勝てるはずはない。短期決戦にはラッキーボーイ、そして流れを変える男が必要だ。最大の殊勲者は北條史也だが隠れたヒーローに高山俊を上げたい。

1-7で敗色濃厚だった7回。1死走者なしで代打に出ると左翼線二塁打だ。そこをきっかけに北條の3ランが生まれた。8回は1死一塁で投ゴロ。併殺かと思ったがエスコバーと野手のタイミングが合わず、一塁に残った。そして盗塁を決めると木浪聖也の適時打で生還した。高山をきっかけに流れが好転した。

高山 オレですか? とにかくシーズン終盤からコースとか考えずにいける球はどこでもと思って打席に入っているので。スタメンでなくてもいつでも準備はしているので。8回の投ゴロはついてましたね。

さらに1点差の9回だ。宮崎敏郎の当たりをジャンプして好捕した…かのように見えたがDeNAベンチからのリクエストによるリプレー検証判定で二塁打になった。

高山 あれ、自分では捕ったと思ったんですけどね。いろいろありましたね。

途中出場で逆転勝利に貢献できる男が出現した。そのおかげで3番のベテラン、4番の外国人に当たりが出なくても勝てた。この流れは手放したくない。もうしばらく赤いパンツにするしかない。(敬称略)

DeNA対阪神 8回表阪神2死二、三塁、北條史也は中越え2点三塁打を放ちナインから祝福される(撮影・奥田泰也)
DeNA対阪神 8回表阪神2死二、三塁、北條史也は中越え2点三塁打を放ちナインから祝福される(撮影・奥田泰也)