「いや、もう、めちゃくちゃうまいっスよね」。木浪聖也が舌を巻いたのは広島菊池涼介のプレーだった。この日の広島戦。2回、無死一塁で木浪の放った当たりは痛烈なゴロになった。これを横っ跳びでキャッチした菊池は体が宙に浮いている状態で二塁へ送球。4-6-3の併殺を完成させた。思わず野球ファンのような感想を語ってしまった木浪だが自身も静かに成長を続けている。

木浪は前日の中日戦(北谷)で2回に失策をおかしている。昨季102個という12球団ワーストの失策数を記録しただけに守備力アップが今季、阪神のテーマ。しかし木浪は最初のオープン戦でやってしまった。昨年、セ・リーグの遊撃手でもっとも失策が多かったのは15個の木浪である。

その直後の3回だ。中日の1番打者・大島洋平の中前へ抜けそうな当たりに飛びついた木浪は体を反転させ、一塁へ送球。見事に刺した。これはファインプレーである。実はこれがうれしかったという。

「エラーしたすぐ後にああいうプレーができたのは自分ではよかったと思っているんです。今まではそういうことはできなかった。それが成長かどうかは分かりませんけどね」

そう言いながらメンタル面での手応えを感じている様子だ。確かにルーキーだった昨年、失策をした後、表情が硬くなっている場面はよく見た。

「そうですね。それでまたやってしまう、というケースもありましたから」。そう説明するのは内野守備走塁コーチの久慈照嘉だ。久慈に言わせれば沖縄のオープン戦はどうしてもグラウンドの状態が厳しいので失策は出がちだという。だからこそ「切り替えることができるというのはいいと思います」と評価した。

「まだオープン戦なんで。シーズンになったら出ないように、今のうちにウミを出しておきますよ」。失策について木浪はそうも言った。そう簡単なものでもないとは思うが、考え方は前向きだ。

北條史也と遊撃の定位置争いは続く。いずれも打力を期待されての遊撃手ではあるが、もちろん守備の要としての働きも重要だ。「2年目のジンクス」はよく言われることだが、今のところ、近本光司と同じく木浪はそんなものを感じていない。「キナチカ」の見出しが躍る機会が昨季以上に増えれば、もちろん、阪神は強くなる。(敬称略)