19日のセ・リーグ、横浜スタジアムとマツダスタジアムはビジター球団が9回に得点して、終盤にもつれる内容となった。本拠地のファンが安心して見ていられたのは甲子園だけ…と言いたいところだが危ないところはあった。

阪神打線は1回に首尾よく3点を先制。先発投手は今季ここまで好調の岩貞祐太だ。悠々といけるか…と思ったが野球は甘くない。2回から3イニング連続で1点ずつ失い、4回で同点になってしまった。

阪神も2回、3回と走者は出すものの得点はできない。野球ファンなら、こういう流れがあまりよくないのは分かるはずだ。どうなるかなと思っていた4回、阪神の攻撃だった。

1死走者なしで打席が9番の岩貞に回った。ここで阪神ベンチは岩貞の続投をあきらめ、代打に北條史也を送った。北條はファウルで粘りながらフルカウントから四球を選んだ。

この回は中日ファンにすれば目を覆いたくなるような展開だったろう。先発の梅津晃大、2番手の藤嶋健人の2投手で合わせて5つの四球を出し、安打なしで3点を失ったのだ。

その5つのうち、最初の四球を選んだのがこの北條だ。遊撃手争いのライバル・木浪聖也に水をあけられる形で控えに甘んじることが多い今季。前日までは16打席で15打数無安打1四球だった。つまり、まだヒットがない。

そんな男は、あの場面、どう思っただろうか。同点の4回。1死走者なしからの代打。試合を左右する状況ではない。「いっちょ打ったろか」。向こう意気の強い北條だけに、そう思っていたと思う。

しかし、いわゆる打ち気にはやらずに四球を選んだ。その後、中日にミスが出たのは、もちろん偶然だが「打率ゼロ男」の粘りが大勝を呼び込むキッカケになったといえる。

まだまだ本塁打は捨ててないんやろ? という話をしたのは今年のキャンプだったか。そのとき北條は「昔の元木大介さん(現巨人ヘッドコーチ)ですかね。くせ者になりたいですね」と笑っていた。元木はミスター長嶋茂雄にくせ者と呼ばれ、名を売った。

この試合、北條はその代打だけで終わったが、ベンチにいても、出番が少なくてもくせ者の視点で虎視眈々(たんたん)とチャンスを狙っているのなら、阪神はまだ面白くなると思う。いい感じの5割復帰だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対中日 4回裏1死満塁、サンズの勝ち越しの押し出し四球で生還した北條を出迎える矢野監督(撮影・清水貴仁)
阪神対中日 4回裏1死満塁、サンズの勝ち越しの押し出し四球で生還した北條を出迎える矢野監督(撮影・清水貴仁)