6回を投げて2失点、うれしい白星となった青柳晃洋の投球数は86だった。一方、中日の大野雄大は5回1失点に103球を要した。大野は5回までに9三振を奪ったが救援陣がリードを守れず、結局、勝利投手にはなれなかった。

中日のエース大野は開幕の6月19日から6週連続で金曜日に登板し、いまだに白星がない。

ここで以前に広島OBから聞いた、ちょっと信じられないような話を書いてみたい。30年ほどの前のカープでは新人を含む若手打者には1球しか安打を狙うチャンスがなかったという。

「なんでって、それは2球目まではセーフティーバントみたいにボールを転がして、ファウルにすることが要求されるからです。だから自分の打撃をする機会は1球しかなかった」

何のためにそんなことを…。もちろん相手投手をバント処理に走らせ、少しでも疲れさせ、自分の投球をできなくさせるためだという。本当かいな? と思って他のOBに確認したら「そうじゃよ」と言われた。いかにもチームプレーに徹するカープらしいと思った。さすがに昔の話だが。

逆転勝ちの阪神、面白いと思ったのは本塁打を放った4番・大山悠輔を挟む3番サンズ、5番ボーアの“働き”だった。ともに無安打で終わったが2人は大野にたっぷり投げさせた。

目立ったのはサンズだ。3回の2死一塁で空振り三振に倒れるまで実に10球を投げさせた。これは1人の打者に対してこの日、大野が要した最多投球数だ。

ボーアも1回2死一、二塁のチャンスで遊ゴロに終わったが9球を投げさせている。振り返ればサンズが3打席で21球。ボーアは2打席で13球を投げさせた。好調だった大野が5回でマウンドを降りざるを得なくなった理由は、こういうところにもあった。

もちろん先ほどの“広島の伝説”とは違ってサンズやボーアは大野を疲れさせる目的でファウルで粘ったのではないだろう。もちろん打つためだ。しかしその粘りで球数を増やし、安打は出なかったが大野を早期交代させ、勝利に結びつけた。

本塁打か三振かの外国人は淡泊なことが多い。しかし阪神の2人はそういうタイプではないようだ。相手投手からすれば神経を使う。それが大山や他の選手の結果にもつながっていく。再び貯金の阪神。意味のある勝利だった。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)