訃報が伝えられた渡哲也の「ひとり」という歌が好きだった。作詞・水木かおる、作曲・遠藤実。ドラマ「大都会」の中でも使用された。都会で生きる人間の孤独を感じさせる歌詞とメロディー。以前にカラオケで歌って若い連中にポカンとされたが気にならなかった。キミたちも、いつか、分かる。そう思った。

ひとり。藤浪晋太郎も孤独だったのか。初回、簡単に失点したのは自分がよくない。しかし打線の援護もまるでなかった。広島のルーキー森下暢仁の好投だったのは間違いないが2安打は何とも寂しい。

余計だったのは6回、その森下に2点適時打を浴びたことだろうか。2死二塁から8番・田中広輔を申告敬遠した後で森下に変化球を左手1本で打たれるような格好になった。

指揮官・矢野燿大はその場面について「あそこに飛ぶってことはボールが甘いってことでしょ」と指摘した。声援を送っていた虎党も真っすぐ勝負なら抑えられたのに-と思ったかもしれない。しかし、やはり、そう単純ではない。

10日DeNA戦では同点の4回、岩貞祐太が投手・国吉佑樹にストレートを投げ、決勝適時打を許した。敗戦後に矢野は言った。

「あそこで投手に、しかも初球やろ。チームの士気が上がらんよな。打撃練習なんかほとんどしてない選手でしょ。それを初球、コンと打たれるんだから」

選手をしかるのではなくもり立てて、その力を出させるように努める。そんなポリシーを持つ矢野にしてはめずらしい叱責(しっせき)が続く。

打席の投手をきっちり抑えるには真っすぐ勝負か。変化球か。コースか。高低か。もちろん方程式などない。ハッキリしているのは投手に打たれたら印象は悪くなるということだけだ。

「結果論」ということをよく考えるが、結局、プロ野球、特に投手は結果論なのかと思う。抑えればたたえられ、打たれれば非難される。だからこそ孤独なのかもしれない。高校生のときから注目されるマウンドに立つ藤浪にとっては今更な話だろうが。

ひとりのマウンド。しかし投手は孤独だけではない。その裏返しで、他にはない特権もある。この試合、森下には「完全試合」の可能性すらあった。そんな栄光が与えられるのは投手だけだ。藤浪よ。次戦こそ孤独に打ちかち、白星をその手につかんでみせろ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)