ふがいない気分だろう。「悔しい」とは思えないかもしれない。それでも「ふがいなさ」は感じるはず。佐藤輝明だ。2点リードの8回無死二塁で打席が巡る。ここで指揮官・矢野燿大は犠打をさせるため代打・島田海吏を送った。

もしも前半戦の佐藤輝だったら…。代打などあり得ない。出したら「何考えてんねん!」というムードになったはず。しかし、この日はベンチも虎党も「この作戦かな」と受け入れるしかなかった。モニターに映し出された佐藤輝の表情もなんとも言えない様子。ぴったりくるのは、やはり「ふがいなさ」だろうか。

現状、安打は期待できない。それは分かるとして右方向に引っ張る進塁打すら無理と思われているということだ。「より堅くバントで…」と言えばそれまでだがベンチから今の自分がどう思われているかを実感したはずである。

まさに「天国から地獄」を味わっている日々だろう。新人初の「オープン戦本塁打王」からなだれ込んだ開幕、前半戦で大暴れ。新人左打者としては史上初の20発超えも達成した。それがここに来て「59打席連続無安打」というプロ野球野手ワースト記録まで残してしまう落ち込みようだ。

しかし独断と偏見で言わせてもらえば、それでいいのだ。もしもあのままの活躍でシーズンを終えていれば。素直な性格の佐藤輝でも「こんなもんか」と思ったはず。聖人でもない限り誰でもそう感じるだろう。それこそ“てんぐ”になっていたかもしれない。

今は頭を打ち、必死であえいでいる。誰にでもあることかもしれないが特異なのは優勝争いを続けるチームの中で、スタメンで出ながらその苦しさを経験しているということだ。これは野球人生において、とてつもなく大きいはず。

このままで終わるのか。最終盤、復活劇を見せるのか。それは分からない。はっきり言えるのは佐藤輝は得がたい貴重な経験をしているということだ。

投手戦というより両軍とも好機を逃す拙攻続きの試合はロハスの“びっくり弾”でなんとか拾った。「勝ちゃあなんでもいいんだけど。ちょっと打線も奮起してほしい」。矢野も思わず本音を漏らした。ここで佐藤輝の復活があって勝てればそれこそハッピー・エンドだ。しかし、それがなくても意味はあるはず。覚悟して、残り15試合を見守りたい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)