“不本意”を糧にしろという話だ。この試合のハイライトは7回、無死一、二塁から5番・大山悠輔が犠打を決めた場面だろう。甲子園もどよめく指揮官・矢野燿大の采配は糸原健斗の適時打で実を結んだ。

就任以来「選手をもり立てる」というポリシーでやってきた矢野にすれば異例の作戦。反対に言えば、そうせざるを得ないほど“異様な展開”だった。

湿りがちな打線が1回からヒットを続け、6回までに13安打。しかし得点は3点止まり。先制点は4回に出たガンケルの適時二塁打だった。その間に併殺(2回)盗塁失敗(3回)本塁憤死(4回)、揚げ句の果てに「左翼ゴロ」(6回)まで出てしまう。

3-0の7回にガンケルからつないだ渡辺雄大が適時打を許し、1点を返された。終盤に3-1。これはあやしい。熱心な虎党ならそう思ったはず。それを受けての7回だった。ここは絶対に得点が必要。「なかなか点が取れないなかでこういう野球をやっていく必要もあるかなと思います」。矢野もそう振り返った。

とはいえ5番にバントか。大山は真面目だし、佐藤輝明と4番争いをしていた開幕前も「どっちでもええやん。試合に勝てばええやん」と言ったぐらいなので、あまり不満に思ってはいないかもしれない。

だがプロ野球で5番が犠打というのはあまりない。よほどの大一番というか瀬戸際でなければ使わない手だ。やはり不本意に思うところだろう。原辰徳だってやるじゃないかというのは意味がない。あれは原という存在の特異さによるもの。広島3連覇監督・緒方孝市(日刊スポーツ評論家)は4番の鈴木誠也に対し、犠打のサインはただの1度も出さなかった。

だから大山には勝利の陰で悔しさを感じていてほしい。同時に「今はその程度」とかみしめることだ。古いと言われるかもしれないがその不本意さを感じてこそ、成長できると思う。

藤浪晋太郎も同じだ。8回に出てくるとやはりムードが変わる。森友哉との対戦も面白かった。その藤浪も昨秋「自分のエゴで先発をやりたい」と発言し、プロらしさを感じさせた。今季は開幕投手も務めたし、現状は不本意のはず。しかし首脳陣からそう見られているのは事実だ。不本意さを晴らすには自分がやるしかない。この2人が「見とけよ」と実力を発揮すれば阪神は強くなる。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対西武 阪神4番手の藤浪(撮影・前岡正明)
阪神対西武 阪神4番手の藤浪(撮影・前岡正明)