「これは教育やろなあ~」。指揮官・岡田彰布が好むフレーズの1つだ。凡ミスをしたときなどマイナスの方向で使用することが基本的に多いのだが、この日の練習試合に限ればプラスでそんな感じだったかもしれない。敵地での広島戦は4-0で快勝。現時点で勝敗は関係ないが、岡田の求める野球の“気配”が出たことは大きいと思う。

四球である。阪神が選んだ6四球に対し、広島のそれは2つ。阪神先発はコントロール抜群の村上頌樹だったので、制球力に関する両軍投手の問題という面もあるのだが阪神ナインはしっかり選ぶということをあらためて示した。

言うまでもなく、昨季に「安打も四球も同じ」と岡田が球団の査定ポイントを変えてまで推し進めた考えが浸透してきた結果だろう。試合後、虎番キャップたちに囲まれた指揮官は淡々としていたがそこだけはうれしそうに、こう話した。

「内容的にはすごいいいよな。見極めとか四球選ぶとか、そういう意味でもな。まだ査定はないで! 四球の(笑い)。いま四球選んでも査定はないけど自然に体に染みついた方がエエわな。自然に普通にボール振らないというかな。そらもう体に染みついたら、自分のもんにしたら、こっちのもんやからな」

この試合で言えば、その象徴が5年目の井上広大だったと思う。8回1死一、三塁の好機で代打に立った。外野手の競争が激化する中、アピールしたい立場だ。しかしフルカウントからの6球目を選び、一塁に歩いた。

「ヒットでなくても貢献できたらということです」。井上は静かにそう話した。前日の楽天戦では好機で簡単に空振り三振に倒れ「あれはあかん」と指揮官に厳しく言われていたが、この日は仕事をした格好。岡田も「おう。選んでたのう」と笑顔だ。

付け加えれば、その1死満塁で次打者・木浪聖也の強い一直で飛び出さず、併殺を防いだ。「壮さんからライナーもあるということを頭に入れておけ、と言われていたので」(井上)。一塁コーチである筒井壮からの指導を実践していた。

もちろん井上だけでなく佐藤輝明も森下翔太も四球を選んだこの試合。14残塁はなかなかの拙攻だが、まずは安打でも四球でも塁に出ることが重要という岡田野球の鉄則を、あらためて示した結果になったかもしれない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

1回表阪神2死二塁、四球を選ぶ佐藤輝(撮影・前田充)
1回表阪神2死二塁、四球を選ぶ佐藤輝(撮影・前田充)
広島対阪神 1回表阪神2死一、二塁、四球を選ぶ森下(撮影・前田充)
広島対阪神 1回表阪神2死一、二塁、四球を選ぶ森下(撮影・前田充)