これはめずらしい。佐藤輝明があんなに怒るとは。プロ入り以来、彼を見ているが初めてではないか。見た目はヒゲを生やしていかついが、物腰は柔らかいし、声を荒らげる場面など見たこともない。
8回、1死走者なしでカープの左腕ハーンが投じた球が原因だ。2ストライクナッシングで追い込まれてからの3球目、150キロのストレートがすっぽ抜ける。これが佐藤の胸元ギリギリを通った。捕手も捕れないほどの抜けっぷりだ。
危うく避けた佐藤は直後に抗議するようにバットを放り投げる。一瞬、顔をハーンに向け、マウンドに向かう様子も見せたが踏みとどまった。だが空振り三振に終わり、ベンチに戻ったとき。ヘルメットを脱ぐとモニターで見る限り、ベンチ柵に1回、イスに3度、たたきつけたのである。
伏線はあったと思う。前日、死球を受けた前川右京が骨折で登録抹消の憂き目に。カープからは4月にも近本光司が死球を受け、骨折。ようやく最近になって復帰したばかりだ。1シーズンに同じ球団による死球で2人が骨折する事態は、あまり聞いたことがない。
それだけに試合前には敵将・新井貴浩が「本当に申し訳ない」と謝罪していた。不穏なムード漂う中で始まったゲームは、この日も2死球が記録された。当てたのはいずれも阪神側だ。
1つ目は5回、伊藤将司の投球が名原典彦の内角をかすった。2つ目は8回に1軍に戻ったばかりのモレッタが小園海斗の背中を直撃したもの。こちらは前日に広島・島内颯太郎が前川に当てた感じに似ていた。
この日、サンテレビで解説していた広島3連覇監督・緒方孝市(日刊スポーツ評論家)は現役時代、歴代35位の87死球を受けている。「我々の頃はシーズン通して出たら2桁ぐらい(の死球)は普通にあった」。そういう話もよくする。
その結果、乱闘にもなったが最近ではそういうシーンは見なくなった。いろいろな意味で洗練され、デリケートになってきた世の中と同様だろう。指揮官・藤川球児も佐藤輝明もこの話には多くを語らなかった。
いろいろな見方はあるだろうが、やはり、ここは冷静にいきたい。佐藤にしても怒った結果が三振ではいいところなしだ。あそこで本塁打でもブチかましていれば「でやっ!」と叫べたはず。この世界、大事なのは「心は熱く、頭は冷静に」だと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)




