横浜・渡辺元智監督(70)が有終の美へ、コールド発進した。横浜が7回コールドで光明学園相模原を破った。今夏限りで勇退する渡辺監督が背番号1を与え期待する最速146キロ右腕の藤平尚真投手(2年)が先発し、5回を1安打6三振無失点と好投。打線も2本塁打で援護した。

 渡辺監督はベンチの中で黄色いメガホンを振り、時折身を乗り出して選手を鼓舞し続けた。試合後の取材で椅子が用意されると、フーッと息をついて腰掛けた。「最後だと周りが騒ぐものでね。自分としては選手が主役で勝たせたいのだけど、選手の方もそういう思いがあったのか、最初はちょっと硬かった」と苦笑いした。

 2回に1点を先制したが5回まで追加点を奪えなかた。緊迫した展開の中、「涌井(ロッテ)クラスになれる」と期待する2年生エース藤平が踏ん張った。初回こそ2四死球を出したが、尻上がりに調子を上げ、5回を1安打無失点に抑えた。大貫中時はU15(15歳以下)のエースで、全日本中学校陸上競技選手権大会の走り高跳びで準優勝もした。抜群の身体能力を持ちながら、成長痛とケガに泣き今春は登板がなかった。「今日は3、4割。もっと力を出せます。ケガで監督さんやチームに迷惑をかけたので恩返しがしたい。自分が甲子園に連れて行きたいです」。帽子のつばの裏に書かれた「恩返し」の文字を見ながら勝利へ導いた。

 甲子園通算51勝の名将が試合前にはモノマネまで披露した。2年生で4番を打つ公家響内野手の独特の走り方を“完コピ”して笑いを誘った。監督は「大会に入ったら楽しくやろうぜということ」と、前日までの厳しい表情を一変させた。マネをされた公家は、6回に2ランを放つなど4安打2打点と大当たりだった。

 采配もさえた。1-0の5回無死一塁。藤平に犠打のサインを出したが、1ボール後にバスターエンドランに切り替えた。「まず送りバントのところだが、平田(部長)が『藤平はバントが上手じゃないです』とアドバイスしてくれてね」。打球が中前へ抜けると、隣に立つ次期監督と手をたたいて喜んだ。

 昨秋は3回戦で慶応にコールド負け。今春も3回戦で桐蔭学園に敗れたが、辛抱強く教えてきたことが形になってきた。渡辺監督は「やっとゲームができるようになってきた。藤平は、あんなもんじゃないけどね」とニヤリ。試合中にはメモ帳を何度も取り出し気付いたことを書き込んだ。その目は頂点だけを見ている。【和田美保】