日野(西東京)の嶋田雅之監督(53)が、常識を覆す指導法で強豪私学の壁を打ち破る。昨夏の西東京大会は、5回戦で怪物スラッガー清宮幸太郎内野手(2年)擁する早実に8-9で惜敗。中学で軟式野球部だった選手の身体能力を鍛え、あと1歩まで追い詰めた。13年夏には決勝まで進んだ「都立の雄」が、悲願の甲子園を狙う。

 セオリーは存在しない。嶋田監督は、内野のボール回しや併殺練習に、投手や外野手も加える。体力強化メニューでは、おんぶした選手をくるくると回した。時にはサッカー、バドミントンもやる。

 嶋田監督 身体能力とセンスを磨くんです。「運動能力がなければ、野球はうまくならない」と言っている。昔は(長距離を)走らせていたけど、試合とは違う体力だと思う。つまらない練習は、やる側もさせる側もつまらないですから。

 練習内容は、すぐ変える。メニューの1つに、35スイングを全力で3セット続けるティー打撃がある。選手がヘロヘロに疲れる、通称「ヘロティー」だ。今春の東京大会で二松学舎大付(東東京)に完封負けし、パワーアップさせた。バットを構えて腰を落とし、がに股で立ってからノーステップで打つ。今春センバツ2度目の出場で4強入りした秀岳館(熊本)の練習法だ。

 嶋田監督 「メガ・ヘロティー」と呼んでます。試合では楽に打たせてもらえないんだから、自己満足の打撃はさせない。うちの練習はほとんど「パクリ」(笑い)。他のスポーツでも何でも取り入れる。型にはめるのが嫌いなんです。

 雨の日は心を鍛える。教材は主にドキュメンタリー番組。その1つが、帝京大ラグビー部の「尊敬のジャージー」。控えでも他人のために動き、周囲から尊敬される人間がチームを変える-。毎日の指導に加え、実例を見せて訴えかける。

 嶋田監督 日常生活で自分から動けない子は、野球でも周りが見えない。声を出せないから、試合では使えない。体を鍛えて、考え方や発想を変えてあげる。きっかけがあれば、軟式出身の子も一気に伸びます。

 昨夏の早実戦後、嶋田監督は選手以上に悔しがっていた。私立の桜美林高出身の監督が、私学全盛の高校野球を覆そうとしている。

 嶋田監督 いい試合をしても、勝たないとダメ。地元の子を鍛えて、私学を倒して甲子園に行くことに意味がある。私は、都立の無印良品で勝負する。

 今夏の西東京は本命不在の大混戦。7月13日の初戦から並み居る強敵を倒し、聖地への切符をつかんでみせる。【鹿野雄太】

 ◆嶋田雅之(しまだ・まさゆき)1963年(昭38)1月27日、横浜市生まれ。桜美林高、日体大でプレー。主なポジションは中堅手と遊撃手。八丈、砂川、小平西の監督を歴任し、07年から日野で指揮を執る。最高成績は13年夏の西東京大会決勝。