一振りで流れを変えた。0-0の4回。広島新庄・有村の110キロをすくい上げた。走りださずに打球の行方を見届けると、右拳を握った。打球は左翼バルコニー席への130メートル弾。そこから1イニング6得点。試合を大きく動かした。

 2回戦で右手首に死球を受け、準々決勝まで1安打。「チームメートに、お前がいないと勝てないと言われ、励まされた」。患部の痛みは抜けたばかりだが、スタンドから声援を送る仲間の存在が力になった。

 プロ注目の大型捕手。目標でもあるOBの巨人小林と比較されることもあるが「自分とはレベルが違い過ぎる」と苦笑いする。数々の努力の逸話を持つ先輩を目標とし、ミットの位置や捕球からスローイングまでの動きなどを手本としてきた。この日は1点差に迫られた終盤に苦心のリードを余儀なくされたが、何度もうなずき「大丈夫」と鼓舞して、投手を引っ張った。

 中井監督のもとで野球を学ぼうと、広陵に進学、最終学年でようやく頂点に立った。「甲子園出場を目指してきたわけじゃない。甲子園で日本一になることが目標」。食事でも好物は最後に残しておくタイプの中村にとって、至福の時はまだ先にある。【前原淳】

 ◆中村奨成(なかむら・しょうせい)1999年(平11)6月6日生まれ。大野東小1年から野球を始め、3年から捕手となる。広陵では1年春からレギュラーとなり、1年夏には背番号2。今大会は2回戦の崇徳戦で右手首に死球を受けた影響もあり、打率1割7分6厘。それでも準決勝、決勝でいずれも決勝弾と勝負強さを発揮した。走攻守に優れた捕手としてプロ注目の逸材。181センチ、78キロ。右投げ右打ち。