リアル“殿馬”が大暴れだ。日大三(東京)が21世紀枠で初出場の由利工(秋田)を5-0で下した。4回に日置航内野手(3年)の今大会第1号ソロなどで2点を先制。2番手でリリーフした井上広輝投手(2年)の好投も光り、同校の春夏通算50勝目を飾った。

 メロディーに乗ったかのように、日大三・日置は軽快にダイヤモンドを1周した。4回無死、1ボールからのスライダーを強振。昨年のセンバツ、初戦の履正社戦で遊撃手の位置から「かっこいいな」と見上げた大会第1号を自らのバットで刻んだ。「完璧でした。普通の球場とは違っていて、気持ち良かったです」と笑みをこぼした。

 自身も、チームも、リズムに乗った。由利工・佐藤亜のキレのある直球対策として、打順が1巡した4回から打席の位置を靴1足分捕手寄りに変更。3安打2打点と躍動した日置の1発で打線が目覚め、好投手から12安打で5点を奪った。日置にとって、上田(長野)で87年夏の甲子園に出場した父透さん(47)を超える甲子園1勝だった。

 走攻守でリズミカルな動きは、4歳から始めたバイオリンで培った。長野・上田市の実家の隣がバイオリン教室の先生だった縁で、週1回のペースで演奏。父と毎日、野球の練習を続ける中でも、中3まで通った。「心が落ち着きます。カノンが大好きです」。漫画「ドカベン」の殿馬一人はピアノだが、日置はバイオリンで感性を磨いた。

 11年夏、阪神高山らを擁し、全国制覇した姿に心を奪われ、日大三への進学を決断した。「かっこよかった。僕も甲子園で勝つために三高に行く」。同校の甲子園通算50勝目で、甲子園での勝利は偶然にも11年夏以来、出場4大会ぶりだった。「監督さんのために」。当時、11歳の日置少年が感動した先輩たちの言葉を体現した。【久保賢吾】

 ◆日置航(ひおき・わたる)2000年(平12)6月16日、長野県上田市生まれ。小3から野球を始め、中学時代は上田南シニアに所属。3年時にジャイアンツカップで8強入りした。1年秋から正遊撃手で、昨年はDeNA桜井、金成らとともに主軸を任された。高校通算13本塁打。176センチ、78キロ。右投げ右打ち。