熊谷(北埼玉)の篠田浩輝主将(3年)は穏やかで、人が良く、笑って流してしまうタイプだ。そんな彼が突然「負けろ、負けろと思って見ていました。ずっと相手を応援していました」と熱くなった。

 篠田主将の思いの矛先がテレビ画面に向けられたのは、1年前のこと。花咲徳栄が甲子園で優勝した。埼玉県勢初となる夏制覇。それまでは1951年(昭26)の熊谷と、93年(平5)の春日部共栄の準優勝が県勢の甲子園最高成績だった。今年で創部103年目。歴史ある母校の名誉な記録が抜かれたのが「悔しくてたまらなかったです、本当に」と語気を強くして振り返った。

 熊谷は49年(昭24)、埼玉県勢で初めて甲子園に出場した。これまで通算3回出場。同校OBでもある岡村健二野球部長(50)は「昔は“粘りの熊谷”なんて呼ばれていました」と振り返る。昭和50年代には、3年連続で熊谷市内の高校が甲子園に出場したこともある。サッカーW杯日本代表の原口元気(27)の故郷として話題になった。来年にはラグビーW杯も行われる。それでも熊谷市の野球人気は根強い。

 今も昔も変わらず、“熱さ”が熊高のDNAだ。6月中旬に生徒会長選の演説会が行われた。演説終了後、体育館を埋める約1000人の男子生徒たちが次々と候補者に質問をぶつけ、議論する。熱気ムンムン、質問の挙手はいつまでも途切れなかった。

 脈々と受け継がれるDNAを内に秘める篠田主将も、よほど悔しかったのだろう。「(花咲)徳栄に去年記録を抜かれた。必ず抜き返します、ってぜひ記事に書いてください!」と熱いまなざしで訴えた。「日本一暑い街」ともいわれる埼玉・熊谷で、熱い球児たちが日本一を狙う。【金子真仁】