緊急事態宣言が全国に拡大され、新型コロナウイルスの終息はまだ見えない。高校の野球部も、休校に合わせ休部となっている学校がほとんどだ。かつてない苦境で、現場を預かる指導者は何を思い、願うのか。春夏甲子園優勝3回を誇る帝京(東京)・前田三夫監督(70)は生徒たちの心中をおもんぱかりながら、夏の選手権開催の望みを語った。

   ◇   ◇   ◇

球音の消えたグラウンドは奇妙だった。前田監督は「何か寂しい気もしますし、不思議な感じもします。もう半世紀、高校野球にお世話になって、こういう状態で見るのは初めてですね」と話した。電話口からでも無念さが伝わってくる。

帝京野球部は2月28日に活動を休止した。当初は2週間をめどとしたが、練習再開は小刻みに延期された。結局、学校の休校延長に合わせ、5月7日まで休みとなった。部員たちは自宅待機が続く。前田監督も、ほぼ自宅で過ごす毎日。時々、グラウンド状況を確認するため足を運び、「妙に静か」な学校を見て帰る。

活動休止は自分の口で伝えた。「家で自粛し、感染しないように努力してくれ。また、動ける範囲で、やれるところはやっておいてくれ」。部員たちの表情はマスクでうかがえなかったが、「目を見ますとね。残念だなあ、というのが分かりました」。あえて、具体的な練習メニューは指示しなかった。「言えばやる」だろうが、無理がかかると判断した。「やれるだろうし、やっていると信じてます」と各自に任せている。

春季大会が中止となり、夏の選手権も見通せない。ただ、百戦錬磨の名将は慌てない。「冬の間、相当やってますんで、もったいないというのはあります。ただ、体そのものは縮みますけども、またやれば元に戻りますからね。焦ってはないです」。もっとも、時間との闘いだ。「まずは体を戻すのに2週間。それから1回、集中して体をたたいておかないと、夏の暑さにはもちません。実戦感覚も戻さないといけない。(東東京大会初戦が)7月半ばと考えれば2カ月は欲しい。最低でも1カ月半は欲しいですね」。5月8日再開なら間に合う計算だが、活動休止が伸びる可能性もある。今の日程でも「ギリギリでしょうね」が本音だ。

正直、「最悪」も頭をよぎるという。甲子園はおろか、各都道府県大会も出来ないのではないか。「3年生は夏が最後。ずらしてでも出来るなら、やらせてあげたい。頑張ってきたものが報われる」。大会全部が無理なら「そりゃあ、甲子園が目標です。でも、もう1試合だけでもいい。このままでは、かわいそう」。勝った先がなくても、0よりは-。偽らざる親心だ。

もちろん、強行開催は望まない。今は練習再開の日、部員たちにどう言葉をかけるか思い巡らしている。

「日本中、世界中の人たちが戦ってますからね。生徒たちも1人の人間として考えて、みんなで頑張っていく気持ちを持ってくれたら。野球だけじゃない。スポーツは、みんなで助け合い、苦しい時も頑張るのが1つの美徳。それを思い起こして欲しい。社会には、高齢者もいる。みんな一緒に歩んでもらいたい」

そして、夏があれば-。

「皆さんの気持ちを沸き上がらせるのもスポーツマンの役割。感動、勇気、自信、希望を持ってもらう。若い人たちの動きにかかっている。試合が出来るようになれば、最善を尽くして、いいプレーができるように、また頑張らせたい」

現場を預かる者の使命がある。【古川真弥】