智弁学園(奈良2位)が2発を含む12安打7得点で大阪桐蔭(大阪1位)を下し、9年ぶりに近畿を制した。

負のジンクスを断ち切った。決勝までの3試合をコールド勝ちで上り詰めた大阪桐蔭を上回る12安打を浴びせ、打力で押し切った。06年から指揮を執る小坂将商監督(43)は、ここまで大阪桐蔭に対して公式戦5戦5敗。就任14年目、6度目の対戦で横綱から初勝利。「生徒たちが一生懸命やってくれた。優勝できてうれしいです」と目尻を下げた。

リクエストに応えた。試合前、井本康勝部長からナインに指令が来た。「勝って泣かしてやれ」。もちろんそのつもりだ。初回に2点を先制。その後も小刻みに点を奪い、3点リードの7回には、来秋ドラフト候補の3番・前川右京外野手(2年)が、相手の同候補で最速154キロ右腕・関戸康介投手(2年)の直球を、右翼場外へ運んだ。高校通算29本目。大きな追加点を生み出し、指揮官も「前川の1点は大きかった」と称賛しきりだった。

恩返しの思いを込めた。

前川は「恩返しという気持ちで。そういう気持ちが強くて勝てて良かった」と明かす。大会期間中は打撃で思い悩んだ。察した指揮官から、たびたび助言を受け取った。トップの位置や体に力が入る癖。打撃練習中は、様子を見回っては足を止め、指導に当たってくれた。「打撃練習からずっと側で見てくれた。監督さんのこと信頼しているので。それが今日のホームランにつながったと思います」。二人三脚でつかんだ1発が、この日の勝利を揺るぎないものにした。

今大会は初戦から決勝までの全4試合、全て各地域の1位校を続々撃破。文句なしの成績で、9年ぶりに近畿王者の座に立った。「(監督は)『ありがとう、おめでとう』と。泣いてたかは分からないけど喜んでました」と前川。指揮官は「泣いてないですね」。マスクの下の口元を緩め、静かに喜んだ。