海を渡る日本人アマチュア選手たちが増える中で、「ゴールドラッシュ」と化す市場をさまざまな視点で捉える連載拡大版。最終回は仙台大からペンシルベニア州立大学に編入した佐藤幻瑛投手(21)。来夏のMLBドラフトを目指す最速159キロの本格派右腕がこのほど単独インタビューに応じ、異例の挑戦を決めた背景を明かした。
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1度決めたら、絶対に曲げない。常人離れした強い信念が、1人の若者を誰もたどったことのない道へと導いた。佐藤は「小さい頃から父に『中途半端にするならやめろ』と言われてきました。自分も中途半端にするのが気に食わなくて。やるなら、とことんやろうと思っています」と力を込めた。
仙台大から米ペンシルベニア州立大に編入する決断は至ってシンプルだ。「自分が小さい頃から求めている『球速』のためです。海外のピッチャーの方が球速帯が速いですし、日本人最速を求める上で1番環境が整っている場所だと思って決めました」と明かした。
もともとMLBで活躍する投手の切り抜き動画を見るのが好きで、投球の参考にするなど海外への憧れも強かった。昨夏の日米大学野球選手権に出場したことも後押しした。大会では全5試合のうち3試合で救援して日本の大会3連覇に貢献。メジャー予備軍の強打者を相手に自慢のストレートで対抗できたことで自信を深め「アメリカ代表のトップ選手と戦って自分の真っすぐが通用するとわかったし、選手たちとの交流の中で『(アメリカでも)いけるな』と感じたのも大きいです」と迷いはなくなった。
超ハイレベルな全米大学体育協会(NCAA)ディビジョン1の複数校からオファーはあった。ビッグ・テン・カンファレンス所属のペンシルベニア州立大は投手育成に定評があるからだ。
スタッフにはドジャースのエメ・シーハンやパドレスのマイケル・キングを育てた投手コーチが在籍。「投球フォームや動作解析も含めて、自分が最大限のパフォーマンスを引き出すためのサポートをしてくれる。自分自身の課題はいっぱいありますが、不安はないです。これからしっかり教えてもらえることへのワクワクもあります」。充実した指導環境と最先端のトレーニング施設を生かして速球を磨き、より高みを目指す気持ちが高まった。
直球へのこだわりは、野球を始めた小学3年生の頃から変わらない。「子供心だったんですけど、やっぱり速ければ打てないじゃないですか。キャッチボールをした最初の時から速い球を投げたいなと思っていました」と懐かしむ。常に独自のトレーニングから「どうやったら速くなるのか?」と絶えず自問自答を続けてきた。
エリートコースをたどってきたわけではない。中学時代には既に138キロを投げるまでに達したが、ストライクが入らずベンチを温めた。
試合に出られない日々が続いても、1度決めたことは頑として譲らない。「速い球を投げるのが楽しいから野球をやっているのに、自分のスタンスを曲げて型にハマってたら、成長しないと思ったので」と信念を貫いた。強豪校に入って甲子園を目指すことには引かれず、青森・柏木農時代も昨日より速い球を投げる一心で鍛錬した。
大学から地道な体作りに励み、その成果が2年の頃から表れ始めると一気に才能が開花した。
課題だった制球力が安定して自己最速は159キロに到達したが、本人も自覚する通りまだまだ発展途上だ。「キャッチャーに真ん中に構えてもらって、そこに思いっきり投げる感覚をつかんだのが大学3年の春くらい」と伸びしろは十分だ。衰えることを知らない球速に対する探究心をずっと胸に秘め、愛知工業大の最速160キロ、中村優斗(現ヤクルト)や東北福祉大の最速160キロ、堀越啓太(現西武)ら大学を代表する剛腕に次々と「なんでそんなに速いんですか?」と聞いて回る。それほどまでスピードを出すことに対して没頭してきた。
「真っすぐで三振を取れた時はいいですよね。バットに当てられない真っすぐを投げたいといつも思ってます。ストライクを入れにいって140、145キロの力で投げるのは試合を作ることはできるかもしれないけど、やっていて面白くないですよ。球が荒れるかもしれないけど全力で150キロ以上を出す方が楽しい。自分のMAXを更新する方がやりがいがある。ずっとそれを求めています」。
追い求める数字があるからこそ、今秋のNPBドラフト1位候補という称号も気にならなかった。「直球のことは今まで独学でやってきたので、ペンシルベニア州立大でいろいろなことを学んで日本人最速の165キロを投げたい」。大学途中という異例の挑戦だが「否定的な人の考えも分かりますが、自分は好きなことをやっているだけです。日本のレベルは高いですが、自分が追い求める球速をもっとアップできる環境がアメリカにあったから行く。日本を嫌いとか、見下しているとかは一切ないです」ときっぱりと言った。
ペンシルベニア州立大には既に合流。公式戦は27年春から参戦となるが、トレーニングや練習試合には帯同してスキルアップに余念ない。意外だったのは卒業後の選択だ。「メジャーで通用するピッチャーになって、ワールドシリーズに出たい夢はありますが、まずは目の前にある球速とMLBでそこに向けて全力でやって1巡目を目指したいです。もしダメだった場合は(来秋の)NPBドラフトに備えたい」。
MLBか、NPBかを決めるのは、この先の自身の活躍が占う。その先には再び日の丸を背負って、WBCのような国際大会に挑む青写真がある。日本人大学ナンバー1の本格派は夢に向かって、わが道を突き進む。【平山連】
◆佐藤幻瑛(さとう・げんえい) 2004年(平16)12月17日生まれ、青森県黒石市出身。小3から牡丹平ブルーホークスで野球を始め、黒石中、柏木農を経て仙台大に入学。同大では1年春からベンチ入り。昨年7月に行われた日米大学選手権に出場し、3連覇に貢献した。兄と弟の3人兄弟。趣味はウェートトレーニングや、俳優の東出昌大のように自然と触れ合うこと。180センチ、90キロ。右投げ右打ち。



