プロ野球のスカウトはぎっしり詰まったスケジュール表を見て、思い巡らす。体は1つ。試合が集中する週末、どの逸材を見に行くべきか。4月、あるスカウトが嘆いた。「サイトウが投げるんだったら見に行った」。4番&エースの阪口楽投手(3年)を擁する岐阜第一と武庫荘総合(兵庫)の10日の練習試合は、ひそかな注目カードだった。

新年早々、大リーグのある球団の調査担当からも問い合わせがあった。「サイトウってどんな投手なんだ?」。全国的には無名だがプロのウワサになっている右腕がいる。甲子園出場がない武庫荘総合で、斉藤汰直(たいち)投手(3年)は地道に力を磨き、春に最速146キロまで伸ばした。

「勝てる投手になりたいです。魅力のある選手。観客を引きつけて、マウンドに立つだけでムードを変えられる投手になりたい」

182センチの長身で速球を軸にスライダーやカーブを操る。昨夏から高評価でいまや日米12球団が視察する注目株だ。昨春から投手コーチで指導する元阪神、阪急の谷村智啓氏(73)は「素材的にいいモノを持っている。体格がいいのが一番。腕の振りに柔軟性がある」と評する。

岐阜第一戦は登板機会こそなかったが、プロ注目の阪口の球筋を見た。斉藤は「威圧、立っている姿がたくましい」と刺激された。目標は大台到達だ。「150キロを超えられれば1つレベルが上がる」。昨秋の県大会は育英戦に9回8失点で敗北。「変化球が入らず、真っすぐを狙い打ちされた」。悔しさをバネにスライダーの精度を上げた。

17日に春季県大会が開幕し、初陣は須磨翔風と戦う。帽子には「勝」と書き込む。「最後の年は勝ちにこだわりたい」。ウワサの「サイトウ」が、勇名をとどろかせる。【酒井俊作】