成田・尾島治信監督(52)と叶大外野手(3年)の“親子鷹”の夏が7回コールドで終わった。

7回1死三塁。打席に向かう叶大に、尾島監督が声をかけた。「自信もっていけよ」。叶大はニッコリ笑って打席に立った。しかし、この回から登板した木更津総合のエース・島田舜也投手(3年)の前に、空振り三振。ゲームセットの瞬間は、涙が止まらなかった。「父との野球が終わった…。一緒に甲子園に行きたかった」。再び涙がこぼれ、しばらく立ち上がれなかった。

4歳上の兄・一晟(現成城大4年)の影響で10年、小学1年で野球を始めた。その年の夏、成田は夏の甲子園に出場。アルプスから甲子園に立つ父を見て衝撃を受けた。「父はかっこよかった。すごいなぁ、と。自分も甲子園の舞台に立ちたいと思いました」。成田の練習が休みの日には、いつも公園で野球。野球が父と息子を結ぶ絆になった。

兄の背中を追いかけた。兄は成田に進学し「父と甲子園」を目指したが3年夏は千葉大会5回戦で敗退。涙する兄を見て「自分も成田で甲子園を目指したい」と兄の夢「父と甲子園」を引き継ぐ覚悟を決め入学した。他の選手の倍、練習しないと認めてもらえない。「チームで一番バットを振ってやろうと思った」と、無我夢中で振り込んだ。

「お前なんて辞めちまえ」「使えねぇ」。何度、怒られたかわからない。しかし、野球ノートには「お前への要求は高くなってくるからだ」。父の本音も知った。思いに応えたい。バットを振る手に力がこもった。

この試合は初回に中前打を放ち執念を見せたが、結果にはつながらなかった。尾島監督は「一生懸命やった結果。責めることはない。小さい体で持てる力を全部出してくれた。成長したんじゃないかな」と、息子を思いやった。

涙で終わった夏も、悔いはない。叶大は「父と野球ができたのは、一生の宝物。親子でできるのは、限られた人しか経験できないこと。本当によかったです」と真っ赤に腫らした目で、笑顔をつくってみせた。甲子園の舞台には立てなかったが、父と息子、一生忘れられない夏になった。【保坂淑子】