明徳義塾(高知)がまた剛腕打ちだ。最速157キロ右腕で今秋ドラフト上位候補の風間球打投手(3年)との対決で、名将の馬淵史郎監督(65)が抜群の勝負勘を発揮した。1回2死から森松幸亮外野手(3年)が四球で出塁。めったに出ない二盗のサインが出た。あえなく憤死。だが、指揮官は深くうなずき「ランナーをこれから意識してくると思う。引っ掛けたり、抜ける球が多くなるんじゃないか」とナインに話した。

序盤から何度も足を絡めた攻撃を見せた。2回もエンドランを敢行。スタートダッシュを切るだけで、風間への重圧になった。指揮官は明かす。「この前の試合と、ノーゲームになった試合で、風間君はけん制球を1球も放っていない。おそらく、けん制球が苦手なんじゃないか。それだったらアウトになってもいいから走っていこうと。機動力を使う。おそらくクイックモーションも急ぐだろうし、余計、ボールをコントロールしにくいんじゃないか。そこを狙うんだと」。高知大会のチーム盗塁数はゼロだ。策士の本領だった。

風間が制球を乱せば、今度は明徳義塾打線の待球作戦が待つ。1回で費やした球数は25球。2回で46球だった。指揮官は選手に「これはいいペースだろう」と伝えていた。3回で実に75球に膨れ上がり、5回で118球まで増えた。指揮官は続ける。「とにかくボール球を振らないで1球でも多く投げさせようと。2回で50球ぐらい投げさせましたんで」。機動力&待球作戦の二重苦を味わわせ、風間を6回139球で降板させた。終盤は一方的な展開。完璧な試合運びで快勝した。

明徳義塾は高知大会から今秋ドラフト上位候補の高知・森木大智投手(3年)の剛速球対策を日頃から続けてきた。5回、右前に150キロ内角速球をとらえて右前に勝ち越し適時打を放った森松も言う。「予選から速球投手がいた。2カ月前から速球の練習をしてきた」。風間との対策が決まると、角度のある球筋に慣れるため、打撃マシンを高くして、投げ下ろされる球を打ってきた。スキがない準備と試合運びだった。

甲子園通算53勝に重ねた馬淵監督は言う。「1日でも長く甲子園にいたいと全員が監督、コーチ、選手たち、みな思っています。1秒でも長くいたい」。高知大会決勝の森木に続いて風間も倒した。大砲がいなくても剛腕を崩す。明徳義塾ナインが、野球の魅力が詰まった一戦を演じた。【酒井俊作】

◆三重盗 明徳義塾が7回1死満塁から三重盗を記録。5番代木のスクイズが空振りとなり、ボールがこぼれる間に3人の走者が進んだ。最近では99年春の沖縄尚学(対PL学園)11年夏の習志野(対静岡)が記録している。