孫の雄姿をスタンドから見つめる。選抜高校野球に出場する只見(福島)は大会第4日の22日、大垣日大(岐阜)と対戦する。兄弟でメンバー入りした兄酒井悠来(はるく)投手(3年)と弟酒井怜斗外野手(2年)は初戦に向け、関西で調整中。只見町内で食堂を経営する祖父雅好さん(71)と祖母理智子さん(63)は「最後まであきらめずに投げ出さないこと。精いっぱいやること」を願い、エールを送った。
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あの瞬間は今でも鮮明に記憶に残っている。センバツ出場校が発表された1月28日午後3時過ぎ。理智子さんが1本の電話を取った。相手はインターネットで只見の甲子園出場を知った都内在住の娘。出場決定を伝えられると全身に鳥肌が立ち、涙があふれた。「本当に現実になったのかなって感極まりました」。雅好さんは「只見から甲子園に行けるのは夢物語。まさか孫が甲子園に行けるなんて。今でも信じられない」と、うれしさと驚きしかなかった。
その数時間後。町に勇気を与えるセンバツ切符をつかんだ孫2人が「やったー!」と元気に帰宅。大好きな祖父母の元へ、真っ先に会いに来てくれた。雅好さんは「悠来が来たときは何と声をかけていいか、声が詰まっちゃって、涙は見せられないし」。ぐっとこらえて伝えた。「テレビ見たよ。良かったな…」。
約40年前に開業した食堂。地域住民だけでなく県内外から客が来店したが、新型コロナウイルスが流行。売り上げは約4割減少し、町の観光業も影響を受けている。町は人口3902人で高齢化率は45・6%(2月1日時点)。過疎と高齢化が進む町に住んできた雅好さんは、甲子園出場を「一筋の光」と捉える。
雅好さん コロナのせいもあるけど、町に活気がないんです。あらゆるものが中止になって人の出入りもできなくて、まして食堂をやっていて売り上げも落ちる。いろいろ悩む部分があったけど、野球部のおかげで仕事とは別に光が見えてきた。
食堂の仕事があり、試合の応援にはあまり行けなかったが、地域住民が支えてくれた。理智子さんは「お客さんがスマートフォンを持っているから『おばちゃん。何点取ったよ』とか『おばちゃん。今、何回だよ』と常に教えてくれました」。点数や状況だけでなく、2人の様子も教えてもらい、心を躍らせて応援してきた。
雅好さんと理智子さんは、悠来、怜斗の妹2人と甲子園で応援する予定だ。背番号「1」の悠来と「8」の怜斗。2人の名前がスコアボードに表示される可能性があり、理智子さんは「涙が出て見られないかなと思います」と話し、エールを送った。
理智子さん 最後まで精いっぱいやってほしいです。怜斗は対戦相手が決まったら、雑誌で相手チームを見て「自分は1番打者だから、みんなに球筋や速さなどを教えないといけないから大変だな」と言っていた。こちらから言う前にやることをわかっている。一番は只見らしくやってほしいです。
雅好さん 悠来は一生懸命投げても打たれることが当然なので、気落ちしないで投げてほしい。怜斗は悠来の背中を見ながらカバーしてほしい。2人が声を掛け合えるかはわからないけど、悠来も怜斗が後ろにいることは、ものすごく心強いと思うから。
天然芝の外野で守る怜斗の目に、1球を投じる悠来が映る-。マウンドにいる悠来の目に、打球を懸命に追いかける怜斗が映る-。兄弟が支え合って戦うことを心の底から願っている。【相沢孔志】

