3月30日準決勝。日体大の山田優太投手(3年=大阪桐蔭)は、練習の合間、テレビを何度ものぞきながら、近江のエースで弟の陽翔(はると)投手(3年)の投球を見守った。左足に死球を受け、足をかばいながらマウンドに上がり続ける姿に「胸が痛かった。正直、結果よりも足の方が心配だった」と苦しい胸の内を明かした。しかし気迫あふれる投球に「陽翔らしい。降板するわけはない」と心のどこかで信じていた。

小さいころから大の負けず嫌いだった。自宅ではいつも2人で練習。日課の壁当てでは、的を外したらジュースをごちそうするゲームも「お兄ちゃん、僕絶対負けへんぞ」と何度も勝負を挑んできた。「3歳年下で、絶対にかなわないとわかっているのに。負けても『次は絶対勝つからな』と。負けず嫌いでした」。そんな弟が選んだ甲子園のマウンド。優太さんは「陽翔なら絶対にできる、大丈夫だ」と祈った。

野球では強気な弟が、今年のお正月、弱音を漏らした。「チームがまとまらないんや」。主将でエースで4番。大黒柱としての苦しみだった。「お前だけでもセンバツ出場を信じて練習に挑んでほしい」。主将が頑張る姿でチームは変わる、とアドバイスした。

背中で引っ張る主将へ。兄の言葉を支えに、練習を重ねてコロナ禍の京都国際に代わり代替出場。そして、準決勝では気迫の投球に仲間が奮起し、大橋大翔捕手(3年)のサヨナラ本塁打で勝利した。「陽翔の頑張りにチームが応えてくれたんや」。弟の成長に、胸がいっぱいになった。

決勝後、優太さんはラインを送った。「悔しかったな。でも、甲子園は1人では勝てへんから。陽翔がしっかりとチームをまとめてな。夏も応援するから」。しばらくして「ありがとう、頑張ります」とだけ返事がきた。その短いメッセージに、弟の悔しさがにじみ出ていた。この悔しさを糧に、もっと大きくなれる。優太さんは「夏は優勝してほしい。陽翔なら絶対できる」と確信している。【保坂淑子】(おわり)