阪神、ロッテで活躍した鳥谷敬氏(41=日刊スポーツ評論家)が10日、13年ぶりに夏の甲子園に出場した母校・聖望学園(埼玉)の初戦をアルプス席から観戦した。チームは能代松陽(秋田)を終盤突き放し、19年ぶりとなる夏甲子園勝利。先輩は「こんなにハラハラドキドキするとは」と応援する側に回った自身の心情に驚き、次戦でセンバツ王者大阪桐蔭の胸を借りる後輩たちにエールを送った。【聞き手=佐井陽介】

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初めて甲子園のアルプス席で母校の試合を観戦させてもらいました。応援する側はこんなにハラハラドキドキしながら1球1球に集中しているのですね。なぜ高校野球が人の心を動せるのか、また観戦しにきたくなるのか、その理由の一端にまた触れられた気がしました。聖望学園の皆さん、19年ぶりの夏甲子園勝利、おめでとうございました。

アルプス席で四方八方から聞こえてくる言葉に耳を傾けると、応援にもさまざまな形があるのだと気付きました。知り合いなのか、ひたすら野球部長の名前を連呼する人。野球部OBではないけど母校の甲子園出場に駆けつけてくれた人。子供や孫が現役部員で、選手全員のプレーを家族のように見守る人。誰もがゲームセットの瞬間まで、固唾(かたず)をのんで試合の行方に注目していました。

当たり前ですが、見ている人たちは実際にプレーできません。ベンチの雰囲気や内情も分からないし、願いを選手に託すしかありません。そうなると、これほどマイナスの感情が頭をもたげてしまうものなのですね。聖望学園は4点リードで迎えた6回表、2点差まで1度詰め寄られました。対戦相手の能代松陽も好チーム。「この流れだと逆転されてしまうのでは」「暑さでエースの足がつったりしないだろうか」。そんな風に勝手に不安になってしまう自分に驚きました。

グラウンドに立っていた時はそんな感情はめったに生まれませんでした。どれだけ苦境に立たされても、なんとか状況を打開しようと常に前向きでいられました。ただ、応援する側はそうはいきません。聖望学園のコーチには自分の同期がいるのですが、彼は今日、アルプス席の通路付近にずっと立ちっぱなしで戦況を目に焼きつけていました。その気が気ではないような表情も見ながら、これだけ多くの人たちの思いを背負ってプレーできる選手たちの幸せを想像しました。

それにしても岡本幹成監督の流れを読む力、繊細かつ大胆な采配は今も健在ですね。犠打や盗塁から手堅く得点したかと思えば、2死一、三塁でセフティーバントを成功させたり…。次戦はセンバツ王者の大阪桐蔭。誰もが認める優勝候補が相手になりますが、選手も監督も応援団も全力を出し切ってほしいと思います。

 

◆鳥谷氏の甲子園出場 聖望学園3年の99年夏、同校を初の甲子園に導いた。2回戦からの登場で日田林工(大分)と対戦。3番遊撃で出場し、3回に中犠飛を放ち先制点。5回にも適時三塁打を放ち点差を2点に広げた。逆転を許した5回裏には、急きょ2番手で登板。6回に3安打を浴び1失点したが、7、8回は無得点に抑えた。打っては2安打2打点、投げては3回2/3を1失点。試合後は「負けた実感がわかない」と悔しさをにじませた。