今夏甲子園大会で浅野翔吾(高松商)のバッティングを高く評価してきた田村藤夫氏(62)は、メキシコ戦での豪快なホームランに木製バットに対応したスイングを確信した。

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甲子園では近江・山田からバックスクリーンへ運ぶ打球を見ている。その光景が強く脳裏にあったが、木製バットで放ったこの一打が、その記憶を上書きした。

まるで金属バットで打った打球のようだった。投手は2番手の左腕。前日イタリア戦のような動くボールではなくきれいな真っすぐ。この第3打席で2度、いずれも真っすぐをファウル。どちらもタイミングが合っていた。仕留めたのはフルカウントから85マイル、およそ137キロの外角真っすぐだった。

何よりも驚かされたのは飛距離。甲子園の逆風で右中間最深部に運んでいるが、木製バットで打ち込んだこの打球の方が、さらにレベルが高い。恐らくバンテリンドームでもスタンドに届いていただろう。

金属から木製に変わると高校生は苦しむ。それは、金属バットの反発力という打者有利な要素がなくなるからだ。打者は投球を見て、ベース板での軌道を予測しバットを出す。これまでは反発力に助けられていた打者は、木製になるとより「芯」を外さない正確なスイングが求められる。木製は10センチほどのポイントで打たないと詰まる。バットの先端方面へズレるならまだ可能性はあるが、2~3センチでもグリップ側にズレれば打球は詰まり失速する。つまりこの打席で浅野は、完璧に打ったということだ。

こうなると、どこまで木製で対応できるか、興味は尽きない。私の感覚的な予想だが、恐らく140キロ超までなら対応すると感じる。そして、8月末に大学生との壮行試合で苦戦した140キロ台後半に対し、いかに順応していくかが焦点になるだろう。

例えば、来季プロでどこまでやれるかと言われれば、現状ではかなり苦しむと想像する。ファンの方の夢を壊すようで申し訳ないが、プロの投手は球筋も、キレも今のレベルとは大きく異なる。鋭い変化球もあり、さらにタイミングを外す技術が加わる。

軽々に現状でプロでの活躍を数字で表現することは難しい。しかし、ファンの方からすれば、そんな話もしたくなるだろう。それほどの夢を見させてくれる衝撃のホームランだった。

最後に、内野陣に好プレーが続いた。中でも二塁藤森が2回裏1死一塁で、一、二塁間のゴロを飛び込みアウトにしたプレーは非常に大きかった。(日刊スポーツ評論家)

◆日本代表の先発メンバー

1(左)浅野翔吾(高松商)

2(三)渡部海(智弁和歌山)

3(捕)松尾汐恩(大阪桐蔭)

4(指)内海優太(広陵)

5(中)海老根優大(大阪桐蔭)

6(右)黒田義信(九州国際大付)

7(一)伊藤櫂人(大阪桐蔭)

8(遊)光弘帆高(履正社)

9(二)藤森康淳(天理)

先発投手 香西一希(九州国際大付)