ドキドキを鎮めてくれたのは、スタンドから届く「勝利!」の声だった。初回無死満塁の大チャンス。花咲徳栄の4番小野勝利内野手(3年)は「初回は相当、緊張します。でも、そんな緊張なんかより、応援してくれている人たちの思いの方が全然強い」。カウント1-1から3球目を豪快に振ってファウル。1発を狙ったわけではないが「ホームランじゃないぞ。打点だぞ」と思い出した。2-2からの5球目、浮いた変化球を捉え、左中間を破る先制の2点適時二塁打とした。

岩井監督から「花咲徳栄の4番は打点だ」と言われている。3試合連続の初回の先制打で使命を果たした。「チームのみんな、岩井先生の思いを持って」と自覚にあふれるが、この日は特別な思いも抱いていた。前日に浦和学院の三浦貴コーチが45歳の若さでなくなった。小野の父剛さんとは巨人で一緒。00年ドラフト同期で同い年だ。その縁で、小野は中学の頃、三浦さんから野球を教わった。この夏も大会前に「頑張って」と励まされた。

「悲しいです。浦和学院の選手たちの方が、その思いはあるでしょうけど、自分も教わったので。三浦先生は敵チームなのに言葉をかけてくださった。恩を返せるように、自分も活躍したい」

ライバルチームを思いやりつつ、感謝をにじませた。互いに勝ち上がれば、浦和学院とは決勝であたる。横浜(神奈川)から編入し、1年のブランクをへて臨む最後の夏。「チームを勝たせなければ、ここに来た意味がない。全員を甲子園に連れて行きたい」と、強い決意で残り2試合を戦う。【古川真弥】

▽花咲徳栄・岩井隆監督(小野の先制打に)「初回に浮いたところを、いきなり打ってくれた。大きかったです」

▽小野の父剛さん(スタンドで観戦)「先制タイムリーが4番の仕事。続けて欲しい。ここから、さらに恩返しをして欲しい。途中から来て、仲間によくしていただいてます」

▽DeNA河野スカウト(小野に)「スイングに力があって、打球が速い。1月から担当しているが、バッティングも、守備も、すごく良くなっている」