<高校野球宮城大会:宮城農3-2多賀城>◇11日◇2回戦

 東日本大震災で校舎が壊滅した宮城農が、震災から4カ月の節目に1勝を挙げた。寮が全壊、通学時間が3時間に増えても野球に打ち込む藤欠徳剛一塁手(3年)が9回にサヨナラ打。同校では先月、津波から生き延びた「奇跡の牛」が品評会で受賞し、今度は野球部が明るい話題を届けた。

 9回裏1死二塁。藤欠がフルスイングした真ん中高めの直球が、左中間を真っ二つに割った。「打った瞬間、サヨナラだと忘れてしまった」。三塁まで全力疾走した無心の一打。宮城農に節目の勝利をもたらした。

 震災から4カ月。校舎が津波で壊滅した宮城農の生徒は、柴田農林(大河原町)亘理(亘理町)加美農(色麻町)に離散。藤欠は寮が全壊し、登米市の自宅から柴田農林まで片道3時間かけて通うことになった。朝4時に起きて野球を続ける生活も「津波を校舎の屋上で見た時は、死ぬと思った。あの恐怖に比べれば」苦にならない。

 大会前、赤井沢徹監督(31)が指導する畜産専攻の仲間に勇気づけられた。実習用の乳牛34頭のうち14頭が津波にのまれながら生き延び、血を流して戻ってきた。その「奇跡の牛」が先月20日、品評会に出品された。そのうち1頭が未経産牛の部で全体2位に輝き「同じ学校の仲間が血統を考えた牛が、生き残って結果を出してくれた。励みになった」と赤井沢監督。殊勲の藤欠も「今度は野球部が、明るい話題を学校に届けようと思った」と心に決めて戦った。

 全国から数多くの支援物資が寄せられた。この日、対戦した多賀城からもボールなどが届いていた。赤井沢監督は感謝を力にする。「対戦が決まった時は複雑でしたが、多賀城さんから『堂々と戦おう』と言ってもらって吹っ切れた。いつまでも『震災の影響が-』とか口にすれば、支援してくれた方々の顔が立たない」。今まで通り勝利を求める姿勢で、恩を返していく。【木下淳】