<高校野球岩手大会:釜石7-6一関学院>◇18日◇3回戦

 東日本大震災の被害が激しい釜石が、昨夏代表の一関学院から金星を挙げた。3点ビハインドの8回表に5連打などで一気に逆転。津波で先発9人中5人が自宅を失う逆境下、モットーの「あきらめない」を見事に体現した。

 鉄の町から来た男たちの「あきらめない」意志は、やはり鉄のように固かった。3点を追う8回表。先頭の5番上野寛弥(2年)が三遊間を抜くと、神懸かったように9番佐々木慶多(1年)まで5本の単打が連なった。引きずり出したエース沼田健人(3年)から四死球も絡めて4点を奪って試合をひっくり返し、昨夏代表から金星を挙げた。

 昨秋は地区予選で1勝もできなかったチーム。菅原基監督(44)はズバリ「震災を機に変わった」と言った。学校は現在も避難所。地域住民に加え、野球部OBの小林和真さん(20)も生活しており「今も目の前に被災した方々がいる。ましてや先輩もいる中、あきらめられるわけがない」。

 鈴木祐平主将(3年)は勝利に驚いた。中学時代、大船渡地区選抜のチームメートだった有力選手が、一関学院に多くいるからだ。

 鈴木祐

 当時の自分は、彼らに全く歯が立たなかった。今も正直、その力関係は変わっていないと思う。でも、勝てた。理由は1つしかない。「あきらめない」気持ちだけが上回った。

 1-5の2回2死から好救援した上野は、釜石市の自宅が全壊しても「野球を続けさせてくれた親に勝利を届けたかった」。大槌町の自宅が流失した4番前川昭平(2年)も、3回に右翼線へ適時二塁打を放ち「僕らがあきらめたら申し訳ない」と気合十分だった。

 先発9人中5人、部員32人中12人が津波で自宅を失った。仮設住宅や親族の家で暮らし、最終バスが出発する午後7時までしか練習できない。その中で貫いた「あきらめない気持ち」。これを月並な言葉で終わらせない一体感が、今年の釜石にはある。【木下淳】