<全国高校野球選手権:日大三11-8開星>◇14日◇2回戦

 夏の終わりを開星(島根)・野々村直道監督(59)は静かに見届けた。巨漢エース白根の球が軽々とはじかれ3回までに5点差とされるも、ナインは「群羊を駆りて猛虎を攻む」信念を貫いた。5回に白根の2点打、森の2ラン、6回に安田の2点三塁打で逆転。直後に6点を奪われたが、V候補相手の打撃戦に満員の聖地で惜しみない拍手を浴びた。「私は漢(おとこ)になれました」と、感謝した。

 学生時代、野球以上にのめり込んだのは美術だった。漫画雑誌「冒険王」に連載された人気漫画を障子紙に模写した。高校時代はピカソと同時代を生きたイタリアの画家アメデオ・モディリアーニが描いた裸婦に心を奪われ、ポスターを部屋に飾った。広島大では野球部の練習とジャズ喫茶で働く日々。美術教師となり、いつしか「山陰のピカソ」と呼ばれるようになった。

 物議を醸した10年センバツでの発言は「外に向けて言ったんじゃなく、負けたことの事実、指導者としてのふがいなさ」が真意だったという。「島根の子が、日本一にもなった日大三相手によくやってくれた」という激戦が、野球部監督として“最高傑作”となった。「芸術家と言ったら大げさだけど、残りの20年をね」。本年度で定年退職した後は“本職”を追求する。【佐藤貴洋】