<高校野球南北海道大会:北海6-0札幌一>◇19日◇決勝

 北海が決勝で札幌一を下し、9年ぶりの夏甲子園をつかんだ。34度目の代表切符は、松商学園(長野)と並ぶ全国最多タイ。札幌地区予選から1人で投げてきたエース鍵谷陽平(3年)が、この日もマウンドに上がり、6安打8三振で完封した。打線も1、7回に2死無走者から2点ずつもぎ取る粘りを発揮するなど、投打がかみ合い、同地区のライバルを6-0と圧倒した。閉会式後に行われた甲子園の組み合わせ抽選では、大会5日目(8月6日)第2試合(相手は未定)を引き当てた。

 この時を、待ちわびていた。鍵谷が最後の打者を投ゴロに打ち取り、両手を真上に突き上げた。駆け寄ってきた捕手の立島に抱きつくと、あとはもう涙で顔がクシャクシャ。三塁側を埋め尽くした北海ファンからは何十本ものテープが投げ込まれ、9年ぶりの頂点を祝福した。

 地区の初戦から1人で投げてきた鍵谷がこの日もマウンドにいた。疲れがないはずはないが、顔には出さない。最速144キロの速球を駆使し、6安打8三振で完封。打線もエースの力投に応える10安打を放った。1、7回には2死無走者から2点ずつを奪う粘りで援護。平川敦監督(37)は「野手が鍵谷のためにと一生懸命頑張ってくれた」と、チーム一丸を強調した。

 鍵谷は七飯中野球部で地元の小さな大会に出ていた時、平川監督の目にとまった。「甲子園で勝つために来てくれ」と言われ札幌にやってきた。だが北海では中学で硬式野球を経験した者が多く、軟式出身は少数派。「最初は練習にもついて行けなくて。基礎体力が全然違いました」。それでも帽子のツバに「雑草魂」と書き込み自己を鼓舞した。

 昨秋にエースとなってからは、公式戦はほとんどすべてに登板しチームをけん引した。ファンもそれを知っている。監督の胴上げ後、スタンドから「鍵谷も胴上げしてやれ~」の声が飛び「鍵谷、鍵谷!」の合唱が起こったほどだ。平川監督は「練習を人一倍する。自己管理もできる。内面的にこれだけしっかりした子は今どき珍しい」という。

 新チームのために「自分がマネジャーの仕事をします」と申し出たのが立島だった。当時、北海にはマネジャーがおらず、日替わりや週替わりで選手が務めていた。だが、やはり中途半端になる。副主将の立島はプレーの支障になることをいとわず、裏方の役目を引き受けたのだった。

 立島は滝川市出身。下宿は鍵谷の向かいの部屋で、大黒柱の支え役も24時間こなした。元高校球児の父満弘さん(50=自衛官)は、北海に合格したが家庭の事情で地元高に進まざるを得なかった。「北海のユニホームを着たお前を見たい、と言われ僕も北海があこがれになった」。厚岸町から北海の門をたたいた平川監督と同じく、北海にあこがれるバッテリーが指揮官を助けた。

 過去5年間、南北海道代表は駒大苫小牧に独占されていた。そこを直接たたいてつかみ取った聖地。善戦及ばず敗れた好敵手たちのためにも、しっかり戦いたい。「北海道の他のチームも含めた代表という責任を、しっかり背負って投げたい」。背番号1は力強く宣言した。【本郷昌幸】