<高校野球南北海道大会>◇26日◇1回戦◇室蘭地区予選

 南北海道室蘭地区の開幕戦で、苫小牧南が6-5の劇的なサヨナラで静内を振り切った。1点リードされた3回の守備で、主将の中野智貴遊撃手(3年)が負傷退場し病院へ直行。奮起したナインは息詰まる接戦を繰り広げ、チームの要がベンチに戻ってきた9回裏に決着をつけた。

 劇的なシナリオは、苫小牧南ナインのために用意されていた。粘って追いつき、逆転され、勝った。試合後、選手は声を掛け合った。「勝ったんだから、みんな笑おうぜ」。涙が交じった笑顔で喜び合った。中野主将は「自分がいなくなった時はリードされていた。病院から戻って仲間の姿を見てたら涙が出ました」とはにかむように言った。

 1点ビハインドの3回表無死一塁。遊撃手の中野は、相手走者が仕掛けた二盗の際にベースカバーに入って交錯し、左ひざを負傷した。ベンチに戻り治療したが、そのまま選手交代のアナウンスが告げられた。チームの要がいなくなり、ナインには一時暗雲が漂った。谷口隆監督(42)は「あいつが帰ってくるまで、もう1試合やろう」と励まし続けた。

 チームは、燃えた。同点に追いつかれて迎えた9回裏、守備から戻るとベンチに中野の姿があった。8回に一時は勝ち越しとなる今予選1号の2ランを放った高田康史一塁手(3年)は「絶対逆転して、笑顔で中野を迎えようとみんなで話していた」と振り返った。最後は同じ3年生の佐藤秀斗捕手、羽坂章吾中堅手が安打で出塁し、野沢生太右翼手(2年)のサヨナラ打をチャンスメークした。

 中野は試合途中、父賀津也さん(51)と苫小牧市内の病院へ向かった。負傷個所を3~4針縫い、全治2週間の診断。落ち込むことはなかったが、試合経過が気になり仕方なかった。病院で賀津也さんが携帯電話で確認し、スコアを伝えていた。球場に戻ると、チームは修羅場を迎えていた。

 最後は結束力が勝利を呼んだ。高田は「(中野は)精神的にも強いし、チームをしっかりまとめてくれている」。谷口監督も「このチームは彼がいないと」と信頼を寄せる。中野は「試合に出られないのは悔しいけど、次もしっかりベンチから声を出します」と言った。主将として迎えた最後の夏。次戦29日の北海道栄戦は、大声でチームを引っ張る。【石井克】