<全国高校野球選手権:早実2-0倉敷商>◇9日◇1回戦

 早実(西東京)がエース鈴木健介投手(3年)の完封&先制打の活躍で、早大・斎藤佑樹投手(4年)を擁した06年以来の甲子園夏勝利を挙げた。7回2死からの5者連続を含む毎回の3安打11奪三振完封。打っては5回2死三塁から、右前に先制適時打を放った。日本一に輝いた06年から続く夏の甲子園連勝を7に伸ばし、2回戦の中京大中京(愛知)戦は、同校OBのソフトバンク王会長が観戦する見込みだ。

 黒土の甲子園に、「WASEDA」の背番号1がよく映える。エース鈴木が「熱く、冷静に」をテーマに、闘将・星野仙一氏(現阪神SD)が見守る倉敷商(岡山)に立ち向かった。奪三振劇のクライマックスは8回。先頭をスライダーで三振に切ると、1番妹尾恭はひざ下に116キロのチェンジアップを沈めて連続三振。続く代打吉田にはカウント2-2から変化球を意識させて、134キロの直球を外角いっぱいに投げ込んだ。

 8回の3者連続を含めて、7回2死から5者連続三振。毎回の11奪三振で完封だ。お立ち台では「あこがれの斎藤さんに追いつけるように、1戦1戦戦っていきたい」と喜んだ。直球は130キロ台前半だが、110キロ台のチェンジアップ、スライダーでタイミングを外す。多彩な変化球で緩急をつけて、直球を球速以上に速く見せた。

 あこがれの斎藤からは大会前に飲料水の差し入れが届いた。直接激励を受けたこともある。現在の野球部員は06年の日本一にあこがれて入学してきた選手たち。和泉実監督(48)は「精神面は斎藤も甲子園で変わった。精神構造は変わってきている」と鈴木の成長を実感する。西東京大会決勝で派手なガッツポーズを見せた鈴木は、勝利の瞬間軽くグラブをたたいただけ。「斎藤さんは目標ですけど、違う人間。練習の時は斎藤さんを目指しますけど、試合では考えない」とクールに決めた。

 5回2死三塁からは、チェンジアップに食らいつき、右前にポトリと落とす先制打を放った。埼玉から片道2時間以上をかけて早実に通う。帰宅はいつも午前0時過ぎ。試合前、バッグにはバスケットボール漫画「スラムダンク」の28巻を忍ばせた。主人公がプライドをかけて戦うシーンがお気に入りで「自分も早実のエースのプライドがある」と、胸を熱くして、真夏のマウンドに向かった。

 出発直前の1日には06年優勝メンバーが、激励に訪れた。同校グラウンドにある斎藤らの名前が記された優勝記念の石碑を、選手たちは「野球の神様」と呼ぶ。西東京大会中は毎日磨くのが日課で、出発直前は水ぶきに、周りの雑草を抜いて「お清め」をした。抜群の勝ち運を誇った先輩にあやかり、勝ち抜くには欠かせない、見えない力も味方にする。【前田祐輔】