今、米野球メディアの間で空前のマイケル・ジョーダン・ブームが起きている。

きっかけは、米スポーツ専門テレビ局ESPNが毎週日曜夜に放送しているドキュメンタリーシリーズ「ザ・ラストダンス」だ。NBAシカゴ・ブルズでMVPに6度輝き、チームの6度の優勝に貢献した「バスケットボールの神様」の現役時代を述懐する番組が今、米国で爆発的な人気を呼んでいる。ツイッターを見ると、普段MLBを取材している米国人記者のほとんどが、野球の試合がない今、このドキュメンタリーを欠かさず視聴しているようで、現地日曜夜のタイムラインは、ジョーダンの話題で持ち切りになっている。

野球界に、ジョーダンが関係深いせいもある。バスケットボールを一時引退した1993年、ジョーダンがプロ野球選手への転向を目指してシカゴ・ホワイトソックスとマイナー契約したからだ。大人気のドキュメンタリーシリーズにあやかり、最近はジョーダンの野球選手時代を振り返る記事のオンパレードにもなっている。94年にホワイトソックス傘下2Aバーミンガムで127試合に出場したジョーダンは、打率2割2厘、3本塁打、51打点という成績だったが、その野球の実力をあらためて検証する記事、当時のチームメートらが知られざる秘話を回想する記事などが目につく。

例えばスポーツ専門ウェブメディア「ジ・アスレチック」は、当時のチームメートでドミニカ共和国出身のロゲリオ・ヌネス元内野手が、ジョーダンから英語指導を受けた秘話を書いている。ある時ヌネスが、ジョーダンから「ミッキー・マントルの名前を正しいスペルで書けたら1000ドル(約11万円)払うよ」と言われたが、どうしても書けずに断念。すると、今度は野球に関する英単語を書くたびに100ドル(約1万1000円)を払うと言われ、それで少しずつためたお金で英語のテキストを買い、勉強するようになったというエピソードだった。

こうして、ジョーダンが野球に挑戦した当時は語られることのなかった意外な事実を知る機会が増えた。「ザ・ラストダンス」の影響で、スポーツドキュメンタリー自体も再評価され、今後、米国では注目度の高いドキュメンタリー番組が次々と出てくる見通しだ。野球では、1998年にカージナルスのマーク・マグワイアとカブスのサミー・ソーサが繰り広げた歴史的な本塁打競争を振り返るドキュメンタリーが6月中旬に、新型コロナウイルス感染拡大で開幕が延期になる前まで球界の話題を独占していたアストロズのサイン盗みスキャンダルのドキュメンタリーも制作される予定になっている。

「ザ・ラストダンス」は動画配信サービス「ネットフリックス」で日本でも視聴できるので、興味のある方にはおすすめしたい。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)