「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」という名言があるが、最近のMLBでは逆に高齢の監督が現場に復帰するケースが目につく。未経験の若手を監督に抜てきすることがはやった最近の風潮からは、完全に逆行した動きだ。

まず今季アストロズを指揮したダスティ・ベーカー監督(71)がそうだ。17年にナショナルズ監督を解任されてから2年のブランクを経て、ハイテク機器を使ったサイン盗みで揺れた球団の監督に就任。60試合の短縮シーズンという厳しい状況の中でチームをポストシーズンに導き、リーグ優勝決定シリーズまで勝ち進んだ。カルロス・コレア内野手(26)、ジョー・ブレグマン内野手(26)という自己主張が強く個性的な若い選手たちを上手にまとめ、その選手掌握術は今も球界NO・1。就任当初は1年契約だったが、シーズン中に契約を延長し、来季の続投も決まった。

そして今オフは、ホワイトソックスがトニー・ラルーサ氏(76)を新監督に迎えた。1979年から2011年まで33年間の監督経験があり、最優秀監督賞受賞4度、リーグ優勝6度、世界一3度を達成している大御所だが、最近はフロントの相談役的立場に就くことが多く、現場での指揮に関しては10年間のブランクがあり、相当なサプライズ起用だった。ラルーサ氏は初めて監督を務めたホワイトソックスを1986年に解任されており、ジェリー・ラインズドルフ球団オーナーがそれをいまだに後悔していることから、完全にオーナーの私情による復帰決定といわれている。そのため不安視する声も上がっているが、ベーカー監督に続きラルーサ監督も成功すれば、時代遅れと敬遠された大ベテラン監督が、あらためて見直されるのではないか。

メジャーで16年、日本でもロッテで計7年監督を務めたボビー・バレンタイン氏(70)も先日、MLBの名物記者ジョン・ヘイマン氏がパーソナリティーを務めるネットラジオの番組で同様のことを語っていた。「データ分析がお得意な今の若いGMは、白髪の年配監督には頼りたくないようだ。選手を率いるという人間的な能力も、監督には必要なのに」と現在の米球界を皮肉まじりに分析。現代の野球ではデータ分析は重要だが、分析スタッフはもちろん選手の栄養面、トレーニング面、睡眠面をサポートするなど、周囲で支えるスタッフが多様で、かつてよりも大所帯になった。バレンタイン氏は、すべてのサポートスタッフとコミュニケーションを取り連携するのが監督の重要な仕事だと指摘し「ベテランのトニーやダスティはチームを率いる上で、さまざまなスタッフや選手との間をつなぐ役割を果たせると思う」と彼らの抜てきを喜んだ。

バレンタイン氏自身は、メジャーで監督に復帰する意欲が出てきたりはしないのだろうか? ヘイマン記者が問うと「私は復帰をするつもりはないよ」と笑いながら答えていたが、どうだろう。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

ボビー・バレンタイン氏(2014年8月9日撮影)
ボビー・バレンタイン氏(2014年8月9日撮影)