エンゼルス大谷翔平投手(23)がメジャーの洗礼を浴びた。ロッキーズ戦に2試合連続2番DHで出場。見逃し三振を含む3打席無安打に終わった。

 2打席凡退で迎えた3打席目だった。打席の大谷に、何やら英語が聞こえてきた。「ヘイ、もうファストボール(直球系の球)は来ないぞ。待つな」。声の主はすぐ後方の相手捕手ウォルターズだった。4球目、外角高めの153キロをスイングしたが、やや差し込まれる形で遊ゴロに。大谷は「微妙なズレで、フライになったり、ゴロになったりだったと思う」と、冷静に振り返った。

 大谷に「直球系は来ない」とささやいたウォルターズが、実際に投手に要求した球は直球系のツーシーム。前日のオープン戦(パドレス戦)で適時打を含む全打席で出塁した大谷をきっちり抑え「へっへっへ」と笑顔。してやったりの表情で「僕はうそをついたんだよ。(英語を)理解していたか分からないけど、少し笑ってたね」と明かした。

 日本球界では、ささやき戦術は野村克也氏が打者との駆け引きで使っていたことで有名だ。長嶋茂雄氏や王貞治氏などの強打者に対して使う奥の手でもあった。「良い雰囲気で打席に入っていたね。体つきも大きかった」(ウォルターズ)。大谷の風格が、メジャーでこれまで154試合に出場し、経験もある主力級の捕手を“本気”にさせたのかもしれない。大谷も「打席を重ねる中で修正していきたい」と切り替え、メジャーの階段を上る。【本間翼、斎藤庸裕】

 ◆ささやき戦術 南海野村克也が現役時代、マスク越しに打者にボソボソと話しかけて動揺を誘った。昭和30年代初頭、まだ20代前半のころ、西鉄花井悠に「最近ライト前が多いな。バットがうまく出てるんやな。インコースは放れんわ」などと揺さぶった。後年はグラウンド外、夜のネオン街でも、情報を収集し、私生活ネタをつぶやき、打者の集中力をそいだ。楽天監督時代の07年には「ワシは銀座で取材した。他球団の選手についた女の子の名前は、みんな覚えとった」と回想していた。