パイレーツ筒香嘉智内野手(30)が5日(日本時間6日)の本拠地ヤンキース戦からメジャー復帰することが内定した。5月25日に腰痛で負傷者リスト(IL)入り。6月21日に傘下3Aインディアナポリスで実戦復帰し、1日のナッシュビル戦で復帰弾を放つと、2日は2戦連続アーチをグランドスラムで決めた。離脱前は腰痛の影響もあり打率1割7分7厘、2本塁打、15打点にとどまっていた。メジャー生き残りへ、不退転の覚悟で仕切り直す。日刊スポーツが復帰までのプロセスに密着した。【取材・構成=為田聡史】

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パイレーツの本拠地・PNCパークの右中間席後方にアレゲニー川が流れる。遊覧船の汽笛にスタンドのファンが呼応する。バックスクリーンの先にはピッツバーグの英雄の名がついたロベルト・クレメンテ橋がダウンタウンへつながる。

メジャー3年目の筒香の本拠地は歴史深さと高層ビル群が調和する。「この景色はメジャー30球団の球場でもなかなかない。この場所がお気に入りの選手は多いですよ」。久々にチームと交わった6月17日ジャイアンツ戦前の練習後の表情はまだ穏やかだった。

慣例に従い、試合をベンチで観戦した。帰宅後はキッチンに立ってキーマカレーをつくった。タマネギとニンジンをみじん切りし、ひき肉と炒める。トマト缶を入れて煮込む。野菜の水分が出てきたら、日本から持参したカレー粉に、オイスターソース、たこ焼きソースが隠し味。目玉焼きを乗せた納得の一皿に舌鼓を打った。

「開幕3試合目から腰に違和感があった。自分がプレーできると判断したので何も言い訳はない。5月の下旬に監督に呼ばれて『どこか痛いのか。正直に話してほしい』と言われた。状況を説明して、話し合った上でILが決まった」。開幕直後から孤独な葛藤が続いていた。

メジャー舞台の過酷さは身をもって痛感している。昨季はレイズから事実上の戦力外通告を受け、ドジャースではマイナーでもがいた。パイレーツのオファーまでの道のりは簡単なものではなかった。「このままシーズン最後までメジャーでプレーできる保証なんて、どこにもない。必要とされればプレーできるし、そうでなければ、いつリリースされてもおかしくない。それが日常的なこと」。

今季はここまで打率1割7分7厘、2本塁打、15打点と乗り切れない状況下での離脱。「去年のシーズン終盤のパフォーマンスがあったから、ゲームに出られているというのはあると思う」と言ってから続けた。「貯金って意味じゃない。開幕直後の成績よりも、夏場以降の成績がより重視される。そういう意味で打席をもらえているんじゃないかと思う」と客観的な視点で説明した。

夕食を終え、席を立った。届いたばかりのファーストミットを拳でたたき、しばらくの沈黙を破った。

「10試合。それぐらいが勝負になる。この成績でチャンスがいつまでも続くとは思っていない。10試合で自分の立場が決まってくる。結果が出せなければクビになってもおかしくない。そういう世界だと分かって、こっちに来ている。自信をもって、メジャーの打席に入れるように準備をする」

6月21日、復帰プログラムが本格化した。傘下3Aインディアナポリスで実戦復帰が決定。前日20日に炊飯器、食材、身の回りの必需品をパッキングして、航空機に飛び乗った。

リハビリ試合の経過は順調だった。連日、重ねていった安打で手応えが深まった。「やっぱり試合は楽しい。練習だけとは全然違う。体の張り方も違うけど、久しぶりの感覚だし、気持ちがいい」。バーバーショップでフェードカットに刈り上げ、身なりも整えた。

同26日の試合後にインディアナポリスからナッシュビルに車で移動した。翌日の休養日は、ランチに郊外のホットチキンの人気店へ向かい、ダウンタウンの活気づくブロードウェイで生演奏を車窓から眺めた。ディナーは老舗ステーキハウスでリブアイステーキを頬張った。メジャー復帰前の最終調整の1週間へ高揚感がこみあげてきた。

実戦復帰7戦目の7月1日、ナッシュビル戦。「自分の感覚よりも打球が伸びている。相当、感覚はいい」と左中間スタンドに待望の1発を放り込んだ。同2日には2試合連続アーチとなる満塁弾を決めた。「しっかりとやるべきことはできた。今のわくわく感が一番大きい。その気持ちを忘れずにやっていきたい」。快晴の青空に鮮やかなイエローカラーが映える。本拠地・ピッツバーグに筒香が帰ってくる。