昨年から今年にかけて、日刊スポーツ紙面に「トミー・ジョン手術」の言葉が飛躍的に増えた。野球ファンの誰もが注目する、ヤンキース田中やレンジャーズ・ダルビッシュが肘を故障したからだ。「手首の腱(けん)を肘に移植する」という手術の概要は理解していたが、医療サイドを取材をしてみると、新たに知ることが多かった。「成長期までは靱帯(じんたい)が骨より強い」とか「手術費用が意外に安い」とか。驚きの連続だった。

 プロアマを問わず、野球選手の故障が減ってほしい。体のどこかが痛くても、トップレベルでない限り、手術に踏み切る選手は少ないだろう。日本は米国などに比べて手術費用が安いとはいえ、成長期までに多い「離断性骨軟骨炎」で、健康保険の3割負担でも約27万円はかかる。故障の原因や予防法を紹介する予定なので、選手や指導者には参考にしてもらえればと思う。

 スポーツ医学は動物実験で研究を進めることができず、経験や症例を地道に積み重ねていく必要がある。野球は140キロ以上の球を投げ、その球を打ち返す。人間にしかできない面白さを実感するともに、動物としては非常に特殊な体の使い方をするスポーツなのだと感じた。【斎藤直樹】