ガムをかんだ広島今井啓介投手(28)が、雄たけびを上げた。

 ガッツポーズも派手だ。おとなしい、感情が出ない…。そんなかつてのイメージはない。マウンド上には今井ならね“ワル井”がいた。同学年で今季初先発だった武内の後を受け、5回から登板。強力すぎる西武打線をバッタバッタと倒していった。

 「準備は出来ていた。積極的に振ってくる打線なので、低めに集めていこうと思った。ゼロでいけて良かったです」

 1球ごとにロジンバッグに手をやる。リリースの瞬間、その粉がはじけ飛んだ。つきまとってきた優しいイメージも、粉とともに丸ごと飛ばした。キャンプ中、畝投手コーチから「バッターを見下すくらいで投げろ」と言われた。キャラではないが、一岡とともにガムもかみ始めた。打者と対峙(たいじ)した時点で、優位な状況に立っていた。直球の最速は145キロ。黒田にも教わったツーシームで詰まらせ、凡打の山を築いた。

 4回ですでに4対4。乱打戦の様相を呈していた試合を引き締めた。同点の5回から登板し3イニングを投げ1安打無失点に封じた。3三振も奪った。7回には西武秋山に唯一の安打となる二塁打を浴びるも、最後は2死三塁から4番中村を遊ゴロに打ち取った。今井の感情は爆発。崩れかけた試合を、見事に立て直した。

 チームは敗れたが、苦しい中継ぎ事情でキラリと輝く投球だった。緒方孝市監督(46)も今井の話題になると厳しい表情を崩し「いい投球をしてくれて、締まった試合にしてくれた」とたたえた。若いブルペン陣においては外国人のヒースを除いて最年長になった。意地を込めた投球だった。「次が大事。続けて結果を出していきたいです」。試合後はいつもの今井に戻っていた。