<野球の国から・取材メモ 技>

 阪神福留孝介外野手(38)の好守に欠かせないのが、愛用のグラブだ。求めることはただ1つだという。

 「グラブの芯の位置だね。ボールが、入ったところから暴れない。芯で捕ったら勝手に閉まってくれる。ちょっとでも芯の位置がずれていたらダメ」

 捕球するポケット(芯)がグラブの重心と一致していれば、ボールがそこに収まった瞬間、グラブは自動的に閉じる。その位置が少しでもずれていれば、そうはならない。ボールを正しい入り口へと導けば、あとはグラブが仕事をしてくれる。自動で閉まった扉が2度と白球を逃がさない。それが相棒への唯一の要求だ。

 福留は球際に強くなる極意をこう語る。「ここ一番の瞬間に力を抜いて、グラブを出せるかどうか。そこで力が入ったら捕れない。力が入ればボールはグラブを弾いて逃げていく。入れば閉まってくれるグラブなら、握りにいかなくていい。力を入れなくていいんだよ」。

 試合用のグラブができるまでには2、3個、費やすこともある。だが、1度できれば3年はともに戦える。アスリートの究極とも言える、極限状態での“脱力”を可能にする相棒が、福留の守備を支えている。【鈴木忠平】