今季からプロ野球に導入されたコリジョン(衝突)ルール。前半戦ではこれまでなら明らかにアウトだったプレーが同ルールの適用でセーフになるなど、問題が浮き彫りになった。ルールの運用基準の見直しが行われ、7月22日から新コリジョンルールが適用されることになった。

7月22日から新コリジョンルール

 NPBは7月20日、本塁での危険な接触を防ぐために今季から導入されたコリジョン(衝突)ルールについて、22日から新しい運用基準を適用すると発表した。

 これまでは守備側の走路への侵入を禁止する指針を厳格に運用したが、新基準では、送球がそれてやむを得ず走路に入った場合は対象外で、ブロックしたかどうかを厳格に判断する。友寄正人審判長は「ポイントは2点。走路に入っていたか入っていなかったかは、大きな問題ではない。ブロックをした場合は、厳格に適用します」と説明した。

 プレースタイルの変更を意図した見直しではなく、引き続き送球を待つ際は本塁の前に立つことが求められる。ただ何をブロックとみなすかは審判の判断で、審判員の裁量はより大きくなるという見方もある。

 コリジョンルールは本来、今季終了後に検証し、見直す方針だったが、現場の審判員を含めて混乱が続き、早期の見直しに至った。NPBは後半戦開幕からの導入を目指したが、15日の日本プロ野球選手会臨時大会で、嶋基宏会長(楽天)が、選手への説明が足りないことや、シーズン中の変更に難色を示していた。

 前半戦ではコリジョンルールについて11件のリプレー検証を行い、4件で判定が覆った。NPB・井原敦事務局長は「過去の部分は、その時の運用基準でやっているというのが12球団の共通認識。4件について、新基準ではどうかという判断はしません」と話した。

 コリジョンルールの新しい運用基準の要旨は次の通り。

 一、走者が明らかに守備側選手に向かい発生した衝突や、守備側が明らかに走者の走路を妨害した場合に適用する。

 一、守備側の立つ位置は基本的に本塁の前。

 一、送球がそれ、走路に入らなくては守備ができなかった場合は適用しない。

 一、衝突がなくても立つ位置が不適切なら警告を与える場合がある。

 ◆巨人高橋監督 やるという話になったのなら、やるのが普通だと思います。

 ◆DeNAラミレス監督 ルールは従うもの。審判と一緒に新しいルールに適応していきたい。

 ◆ヤクルト中村 これまでは走路は空ける、空けないという問題ばかりに意識が向いていた。今回からは、送球を捕球して、そこからタッチしにいくことに意識をすることが大事。捕手にとっては融通が利くと思う。

走塁妨害NG
走塁妨害NG
ブロックが争点
ブロックが争点

コリジョンルール見直しへ

 本塁での危険な接触を防ぐために今季から導入された「コリジョン(衝突)ルール」について、NPBが運用基準の見直しを検討していることが6月29日、分かった。7月4日のプロ野球実行委員会で議論し、後半戦からの見直しを目指す。

 これまで捕手(または本塁カバーに入った野手)は走者の進路に入れないという運用指針を厳しく適用してきたが、ルールの解釈や適用の判断を巡って現場に困惑があり、判定を不服としてNPBに意見書や質問書が提出される事態が相次いだ。新たな基準では実際に衝突が起きたかどうかが重視される。走路に入っても衝突が生じなかった場合は、アウトの判定を変えずに捕手に警告を与える場合もある。

 6月28日までの時点でルールの適用は4件あったが、このうち3件は新基準では適用外になるという。当初は今季終了後に修正点を議論する予定だったが、異例ともいえるシーズン中の変更に乗り出した。

 ◆ロッテ伊東監督 (現行ルールで)やると決めた以上、1年間、貫くことが大事。とりあえず1年やって、オフに検討すればいい。後半戦から変えれば、選手も我々も対応できない。ファンにも、どう説明するのか

 ◆西武田辺監督 しっかりと見直してもらえたら。捕手の動きも含めて判断してほしい。納得がいかないクロスプレーが(他球団でも)いくつか出ている。うちもあったから(14日広島戦でコリジョンルール適用でアウトがセーフに覆りサヨナラ負け)

 ◆日本ハム栗山監督 これは、みんなでやりながらつくっていくしかない。みんなが納得しないとダメだけど、当然改良もされるべき。我々はルールにのっとるだけ

 
 

史上初!広島コリジョンでサヨナラ

<日本生命セパ交流戦:広島3-2西武>◇6月14日◇マツダスタジアム

 同点の9回2死一、二塁で途中出場の赤松が中前にヒットを放ち、二塁走者の菊池が一気にホームへ。クロスプレーとなり、アウトの判定となったが緒方監督が抗議し、リプレーでの検証へ。約10分間の検証の結果、コリジョンルールが適用されて判定が覆りセーフに。史上初めてコリジョンルールでのサヨナラが成立

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9回裏広島2死一、二塁、赤松の中前打で本塁へ突入する二塁走者菊池。捕手上本
9回裏広島2死一、二塁、赤松の中前打で本塁へ突入する二塁走者菊池。捕手上本

3度目の適用

<オリックス0-4DeNA>◇6月12日◇京セラドーム大阪

 5回2死一、二塁で、DeNAエリアンの左前打で二塁から本塁生還を試みた筒香がアウトに。リプレー検証の結果、捕手の山崎勝が走路をふさいだとしてセーフに


伝統の一戦でも

<阪神1-3巨人>◇5月11日◇甲子園

 3回2死二塁で巨人脇谷が中前打を放ち、本塁クロスプレーは1度はアウトと判断されたが、ビデオ判定の末にセーフと覆された。巨人はセ・リーグ初のコリジョンルール適用で勢いに乗り、接戦を制した。一方阪神金本監督は「何でコリジョンなのか?」と杉永責任審判を突き飛ばさんかの勢いで猛抗議。だが「リプレー検証の後は抗議できません。お帰り下さい」と却下された。両手を大きく挙げるお手上げポーズで、顔を真っ赤にしたまま引き揚げた。

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 ◆杉永責任審判のコメント

「その場で球審はコリジョンと判断せず、まずはアウト、セーフのジャッジをすることになっています。ルールに従い、その後審判団で集まりVTRを見た方がいいだろうと協議しました。高橋監督が抗議に来たからではありません。高橋監督には今からVTRを見ますと伝えました。検証の結果、原口捕手は最初から空けておかないといけない走路に立っていました。走路を空けるのは前でなくても構いません。たとえば、ジャンプしないと捕れない送球で走路に入ってしまった場合とは、違ったという判断です」

3回表巨人2死二塁、脇谷の中前打で生還する小林、左は原口(撮影・加藤哉)
3回表巨人2死二塁、脇谷の中前打で生還する小林、左は原口(撮影・加藤哉)
コリジョンルールが適用されたクロスプレー(写真は2016年5月11日)
コリジョンルールが適用されたクロスプレー(写真は2016年5月11日)
3回表巨人2死二塁、脇谷の中前打がコリジョンルール適用での適時打に変更され、ベンチを飛び出す金本監督(撮影・宮崎幸一)
3回表巨人2死二塁、脇谷の中前打がコリジョンルール適用での適時打に変更され、ベンチを飛び出す金本監督(撮影・宮崎幸一)
コリジョンルール適用で判定がかわり、両手を挙げて抗議する金本監督。右は高代コーチ
コリジョンルール適用で判定がかわり、両手を挙げて抗議する金本監督。右は高代コーチ

適用1号

<西武4-8日本ハム>◇5月6日◇西武プリンスドーム

 6回1死満塁、西武高橋光成投手が西川に投じたフォークが暴投になると三塁走者レアードに続き、二塁走者浅間も本塁へ突入。高橋光は「2人目はかえしたくない場面。必死だった」と本能的に走者と相対する形で捕球体勢に入った。ベース上で交錯しながら、いったんはアウトと判定されたが、審判団はビデオ映像を確認。広げた左足がわずかにホームベースにかかっており、コリジョンルールが適用され、無安打で2点を勝ち越された。同ルールが適用されて、判定が覆るのは初めて。高橋光は「ルールはもちろん知ってましたが頭がいかなかった。冷静に対応出来なかった自分のミス。悔しいです」と唇をかみしめた。潮崎ヘッド兼投手コーチは、ケガのリスクを指摘しながらも「挟殺プレーで、投手がホームカバーに入るケースもある。あらためて確認を徹底しないといけない」と話した。

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6回表、高橋光(左)がタッチするが「コリジョンルール」適用でセーフとなる
6回表、高橋光(左)がタッチするが「コリジョンルール」適用でセーフとなる

コリジョンルールとは

【コリジョンルール】

 本塁での衝突(コリジョン)を避けるため、プロ野球では今季から導入された。走者が故意に捕手に衝突しようとした場合はアウトになり、捕手または野手が走路および本塁上で走路をふさいだり、ブロックすると、セーフとなる。ただし、捕手または野手が守備をしようとして走路をふさいだが、審判員が「捕手または野手が走路をふさがずには守備できなかった」と判断した場合は、適用されない。タッチプレーの際、捕手はホームベースの前に立たなくてはいけないことは、開幕前までに12球団に通知した。審判員は悪質な衝突をした走者や、本塁上でブロックした捕手または野手に警告を与え、危険極まりない衝突だと判断された選手は退場になる。

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捕手の立ち位置
捕手の立ち位置

【大リーグでは】

 メジャーを代表する捕手ポージー(ジャイアンツ)が本塁クロスプレーで重傷を負ったことがきっかけとなり、14年からコリジョンルールを導入した。当初は曖昧な基準に現場の監督や選手は困惑し、この年は本塁の判定を巡り92回のチャレンジがあった。その後、大リーグ機構は判断基準の明確化に努めて徐々にトラブルは減り、15年のチャレンジは27回に減った。