キャプテンが一瞬、夢を見させてくれた。阪神福留孝介外野手(40)が、敗戦寸前の9回、広島中崎から逆転の17号2ラン。勝負強さ発揮の起死回生弾に、阪神ベンチも広島の虎ファンも、これで自力Vキープだと歓喜した。ところがその裏、ドリスがサヨナラ2ランを浴びるまさかの悲劇…。だが背番号8が体現した猛虎の意地は感動もの。残り21試合、ネバーギブアップで戦い続ける。

 キャプテン福留が執念の一撃をお見舞いした。5-6の1点ビハインド。敗色濃厚で迎えた9回、1死一塁の場面だ。1ストライクから、広島中崎の147キロ外角球に反応した。打球は低い弾道で逆方向へ一直線。そのまま左翼席に飛び込んだ。土壇場で試合をひっくり返す逆転の17号2ラン。これで自力Vは守れる…。ベンチもファンも歓喜した。その裏ドリスが打たれるまで、夢を見させてくれた。

 「まあ、もう、こういう結果だしね…」

 ショッキングな幕切れから数分後。ロッカー室から出てきた福留は、自身の本塁打に関するコメントを避けた。グッと思いを押し殺して帰りのバスに乗り込んだ。本来ならヒーローになっていたはずの男。片岡打撃コーチは「狙い打ちやし、あのへんはさすが福留」とたたえた。

 諦めない-。その思いを体現してきたのは、他ならぬ福留だ。交流戦では右手中指のケガもあって打率1割6分4厘、0本塁打、4打点と絶不調に陥った。ところが8月には打率2割9分1厘、6本塁打、22打点と劇的に復調。勝負の夏にしっかりと結果を残した。

 「優勝は選手を大きく変えるし、知らないよりは絶対に知っておいた方がいい」

 プロ19年目のベテランは優勝について問われると、常にそう答えてきた。阪神は05年を最後にリーグ優勝から遠ざかっている。現在チームに在籍するほとんどの選手が優勝の味を知らない。中日の黄金期を支え、多くの国際試合を経験してきた男は、阪神の後輩たちにも優勝の味を味わってほしい。それが心からの願いだ。だから、可能性がゼロになるまで闘う。残り21試合もプロ魂でチームを引っ張る。【桝井聡】