ベテランの一振りが、エースの記録に花を添えた。楽天藤田一也内野手(35)が、ソフトバンク戦(Koboパーク宮城)の5回2死一塁から、右翼テラス席へ先制の3号2ランを放った。この1発が決勝点となり、4年連続の最多奪三振をほぼ確実とした先発の則本昂大投手(26)に、今季15勝もプレゼントした。チームは優勝こそ逃したが、レギュラーシーズンは残り2試合。連勝で締めて、最高の状態で2位西武とのクライマックスシリーズ(CS)に挑む。

 仲間思いの男に、トイレの神様が味方した? 5回表終了後、ベンチ裏のトイレで、藤田はエースと鉢合わせ。則本から「球数的に6回までだと思います」と告げられた藤田が、つい口をついた。「打席に回ってきたら俺が決める!」。直後の5回裏、2死一塁で打席が回り「いらんこといったなぁ」と心の中で苦笑したが、ソフトバンク武田の速球を捉えた打球は、右翼のテラス席に吸い込まれた。「ファンの人がキャッチしているのを見て、ホームランだと思った。(則本に)言ってみるもんだな」と笑みを浮かべ、決勝弾の余韻に浸った。

 武田と対峙(たいじ)する準備はできていた。普段はメープルのバットを使用することが多いが、83センチのホワイトアッシュを選択した。「ストレートが速い投手。コンパクトにバットを振れれば」。1打席目の左前打を含め、この日は3打数2安打1本塁打と武田を攻略。的確な決断が結果を生んだ。

 10月の打率は2割3分8厘ながら「打撃の状態はよくなってきている」と言う。自主トレで導入している、身体機能の向上を促す「TRXトレーニング」を、9月1日から再開した。「体のどこかに刺激を与えないといけないと思った」と、体幹や骨盤周辺を鍛え直したことで、打撃フォームが安定した。個人的な上昇の兆しは感じていても、待望のリーグ優勝を逃した現実を重く受け止めている。「結果的に悔しいシーズン。あと2試合いい形で終えて、CSでアピールしたい」と、屈辱を晴らすべくグラウンドに立つ。

 4年連続奪三振キングを確実とした則本に、白星を援護した藤田の働きに、梨田監督は「本当によく打ってくれた」と称賛を惜しまなかった。「勝ち負けも大事だが、みんないい体調でCSに臨んでほしい」と同監督は続けた。残り2試合。3位からの下克上を果たすべく、万全の状態でレギュラーシーズンを締めくくる。【田口元義】