DeNAの稼ぎ頭・今永昇太投手(24)が、プロ初の中継ぎ登板で大役を果たした。本職の先発ではなく、1点リードの7回からマウンドに上がり、2回連続3者凡退に封じた。6回に無死満塁のピンチを三上、エスコバーで乗り切り、つないだ継投策5番手で登板。昨季CSファイナルSでのリベンジの気持ちを封じ込んで27球投げ込み、日本シリーズ王手に貢献した。

 涙のマウンドは、もう乾いていた。今永がプロ初の中継ぎ登板を迎えたのは7回だった。「ブルペンで全力で投げてマウンドにいこうと思っていた。しっかり腕を振れば、相手も打ちづらい」。1人目の菊池への3球目。148キロの剛速球で内角をえぐる。攻めの姿勢を貫き最後は、140キロの高速スタイダーで空振り三振。先発へのこだわりよりも、1点を守ることがすべてだった。

 先発予定だった21日の試合が雨天中止で流れると、中継ぎ待機を伝えられた。今季チーム稼ぎ頭となる11勝(7敗)をマークした2年目。エース級の活躍も、CSの大一番では影を潜めた。甲子園でのファーストS第2戦、世紀の「泥んこ試合」となったゲームは3回3失点で降板。何よりも広島には涙でぬれた記憶があった。

 昨季の広島とのファイナルS第4戦で先発し、1回6失点でKOされた。初球、逆球でど真ん中に甘く入った球がボール判定。先頭を四球で歩かせ始まった悪夢。終戦し、試合後はベンチ裏で涙を流した。「あれはストライクだった」と周囲に言われても「あれはボールです」と断言する。開幕直前、それまで直視できなかった広島に打たれた自分の映像を初めて見返した。アウト3つをとるのに投じた球数は48球。屈辱を刻み込んで今季に挑んだ。

 同じ相手と同じ場所。同じ舞台で同じ1点差ゲーム。しかし、抱く本心は1年で大きく変わっていた。「去年やられたときは自分自身のリベンジと思っていた。でもそうじゃなくて、チームがリベンジできるかどうか。そういう気持ちでマウンドに上がった」。この試合の初球、低めを突いて、文句なしのストライク。1年前の姿はもはやない。個人的な感情を捨て、2回パーフェクトで27球。「つないでくれていた人たちの思いを自分も背負って投げることができた」。こんな気持ちがチームを最後まで強くする。【栗田成芳】