誰が想像した。我こそが「10割男」だ。巨人小林誠司捕手(28)が決勝打でチームに今季初勝利をもたらした。同点の7回1死一、二塁、阪神桑原の133キロ外角スライダーに食いついた。「久しぶりにいいところで打てた。自分でもびっくりしています。うれしかったし、良かったです」。魂を込めた一打は桑原のグラブをかすめ、二遊間を抜けていった。

 強い意志が芽生えてきた。若手中心の秋季キャンプでは高橋監督からキャプテンの指名を受けた。大声を張り上げ、先頭に立って若手を引っ張った。1日1500スイングを振り込む打撃強化の特訓を中心で全うした。「僕が打てなくてチームに迷惑をかけ続けている。投手を助けるためにも打ちたい」。他言することなく1・5キロもある重量バットを淡々と振り込んだ。無言の努力が開幕から4打数4安打、打率10割の“快挙”につながった。

 試合前は祈るような気持ちでバットをにぎっていた。「10割のうちにスコアボードを写真に撮ってお守りにしておきたいですよ…」。昨季まで2割4厘、2割6厘と2年連続でセ・リーグの打率最下位に沈んだ。悪夢は鮮明に残っている。だから少しでも払拭(ふっしょく)するための時間を過ごしてきた。

 2月の宮崎キャンプで松井臨時コーチからマンツーマン指導を受け、打撃コーチからのサポートにも最敬礼で感謝する。「キャンプからやってきたことを信じてやるしかない。コーチに教えてもらってきたし、自分の中では自信もある。それを目いっぱい打席で表現したい」。自分が打てばチームが勝てると小林が一番、分かっている。【為田聡史】