阪神糸井嘉男外野手(36)の弾丸ライナーが竜の息の根を止めた。6回、2番手伊藤準の内角低めのツーシームをとらえた打球は、右翼ポール際に一直線に飛び込んだ。リードを5点に広げる快打に甲子園が沸いた。「しっかりスイングできた。いいタイミングで追加点が取れたので、よかった」。試合中、球団広報を通じてコメントした。

 超人・糸井の面目躍如だ。左打者には不利な右翼から左翼に吹く甲子園の浜風に「勝ちたい」と宣言し、自慢のボディーを進化させてきた。今季5号、甲子園では2本目だが、右翼方向への1発は本拠地で今季初めて。ひと振りで「こどもの日」の甲子園を糸井ワールドに変えた。しかしエンターテイナーはこれで終わらない。

 「ボールが見えへん…」

 試合後、糸井はいくつかの質問に対して、表情ひとつ変えず2度こう答えると、ヒントも答えもないままロッカールームに消えていった。まるで子どもが大好きな「なぞなぞ」だ。問題です。糸井選手がものすごい当たりの本塁打を打ちました。最近、少し調子が悪くて14打席ぶりのヒットでした。糸井選手は何を指して「見えない」と言ったのでしょうか-。

 調子は落ち気味と思われた。前日は3度の得点圏で凡退していた。不振のときに打者がよく口にする「投手の球がよく見えていない」とも解釈できる。または右翼の守備。黄色に染まった客席で打球が見えにくいこともあったかもしれない。該当するシーンはなさそうだったが…。

 打った瞬間、右翼席は本塁打を確信したように総立ちになった。本人も振り抜いたと同時に3歩、4歩と走った。だが突然、急停止。一瞬、虎党を不安に陥れたあと、一塁塁審の手が回るのを見て再び走りだした。「見えへん」の答えは、強烈すぎた自分の打球を見失った-。珍しいことだが、そう解釈するのがよさそうだ。本人にも見えない? 衝撃の弾道。子どもたちは一生忘れないだろう。【柏原誠】