屈辱の傷痕を力に変えた。巨人菅野智之投手(29)が中日打線を6安打に抑え、チーム一番乗りとなる完封勝利を挙げた。

前回登板からの中8日で再確認した直球で序盤から押し込み、115球を無四球で投げきった。交流戦優勝をかけた6月23日のソフトバンク戦ではプロ最短の1回0/3、4失点KO。再び立ち上がったエースが、自力を見せつけ、リーグトップタイの8勝目を手にした。

   ◇   ◇   ◇

菅野が試合開始からの4分30秒に細心の注意を払った。1回の初球、中日平田の外角低めに148キロの直球を決めると3球目に150キロを計測。最後は高めに直球が抜けたが空振り三振に押し切った。続く京田を二直、大島を一直に打ち取り、イニング別失点数が最多の鬼門をくぐり抜けた。初回の3者凡退は今季12試合目で3度目。「3人で終われたので良いリズムで試合をつくることができた」と5月1日の中日戦以来、約2カ月ぶりのスタートダッシュにいつになく安堵(あんど)感を漂わせた。

プロ最短KOの屈辱から192時間。野球と真っ正面から向き合った。導き出した課題は直球の強さと制球力。中6日での調整時にはブルペンに1度も入らないこともあるが、中8日の今回は4日前と2日前の2度ブルペン入り。4日前の1度目では34球中23球を直球に割き、微調整を繰り返した。「苦しい期間ですけどプラスに変えられるように過ごせた」と1つの答えをマウンドで表した。

直球勝負を繰り返した、幼い頃の記憶をふと思い出した。腰の違和感で再調整中の5月中旬。ジャイアンツ球場の室内練習場のいすに腰かけ、目の前の壁に4、5球軽く当てながらつぶやいた。「やっぱり壁当てがピッチャーの基本だな」。5歳の頃から実家近くの公園で祖父貢さんとともに夢中になった日々が制球力、安定したフォームの土台を築いた。戻るべき場所と確固たる自信が幾度も壁を乗り越えさせた。

試合開始から2時間31分後、フェンス際の飛球をつかんだ右翼手の陽岱鋼へ右腕を高々と上げた。「ひとりの力だけじゃ完封できない。達成感という忘れかけたものを味わえた」。それでも返した借りは1つだけだと理解する。「まだ1試合だけ。もっともっと取り返せるように」。次回は中5日での阪神戦(甲子園)で前半戦最終登板を迎える。苦く、もがいた時間を1秒たりとも無駄にはしない。【桑原幹久】

▽巨人原監督(菅野の完封に)「今日はつま先から指先まで、ロスのないパワーがいっていた。非常にいいきっかけ、1歩を踏み出した。次に結果を残すことが重要。4番バッターへの攻め方は1打席1打席、味のある攻め方でしたね」