笑顔なき今季1号だった。阪神原口文仁捕手(27)は反撃ムードを高めるアーチを架けた。

7点を追う5回2死一塁で代打登場。右腕九里の初球、外角カットボールを逆らわずに強くたたいた。「自分のタイミングを取ってスイングすることだけを考えていました」。右翼ポール際の最前列席に2ランを届かせた。

18年末に大腸がんを宣告され、手術を経て6月に1軍復帰。球宴では2打席連続アーチで全国の野球ファンを感動させたが、シーズンでの1発は昨季9月6日広島戦以来332日ぶり。それでも「それは別に何も思いません」と感傷に浸らなかった。

「(点を)取った後、ゲームが分からなくなったところで追加点を取られたことが痛かった。自分の中ではそれが大きいです」。チームが大敗したこともあり、試合後は捕手としての反省が言葉の大半を占めた。

5点差に迫った5回裏からマスクをかぶり、6回裏に3失点で再び流れを明け渡していた。自身は7回無死一塁から左前打で4連打につなげたが、満足感は一切なかった。厳しい表情のままバスに乗り込んだ。悔しさはグラウンドで晴らすしかない。【佐井陽介】