日本人の魔法の手が、イスラエルを初のオリンピック(五輪)出場へ大きく前進させた。

20年東京五輪予選の欧州・アフリカ予選3日目の20日(日本時間21日)、イスラエルが8-2で地元イタリアを下した。オランダに続く強豪撃破で3連勝。残り2戦は格下相手で開催国の日本以外では世界最速での五輪出場切符が目前だ。同代表の岐部和正ベンチコーチ(62)が和のマッサージで主砲の2試合連続本塁打をアシスト。野球では無名国での日本人の奮闘に潜入した。

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試合後、イスラエルのベンチに片言の日本語が飛ぶ。「センセー!」「アリガトウ!」。日に焼けた顔に深いしわを刻んだ小柄な日本人が肩をもまれた。オランダ戦に続き、2戦連発の4番リケルスが明かした。「オランダ戦前に『私には魔法の手がある』と言って足の筋肉をほぐしてくれたらホームラン。今日も頼んだら、また打てたんだ」。主砲の感謝の言葉から離れた隅で岐部コーチは後片付けに忙しかった。

岐部コーチはイスラエル人の妻が娘を母国で育てることを希望し、8年前に海を渡った。大分県の公立高で約30年の監督生活を送り、自然と異国でも子どもたちを指導するようになった。「日本の野球文化と違い、ここは自由で縛りがない。選手が第一なんです」。今予選で初の代表スタッフ入り。ベンチコーチの肩書もトレーナー、打撃投手、用具担当とフル回転だ。

米国と二重国籍の選手も多いが岐部コーチが育てたイスラエル育ちの選手もいる。レーベンガートは「12歳から野球を始めた僕にカズは基礎を教えてくれた」と言う。イスラエルに種をまき、日本へ花を持ち帰る。「チームはプレッシャーもなく、楽しんでます。でもまだ戦いはありますから」。岐部コーチは日本人らしく、五輪の言葉をのみ込み、かぶとの緒を締めた。(パルマ=広重竜太郎)

○…侍ジャパン稲葉監督が個のイスラエルに警戒心を深めた。イタリアを下し、五輪出場を有力とした一戦を視察。「ピンチでも粘り強く投手も投げていた。米国のマイナーでやっている、いい選手が多い」。日本は17年WBCで2次ラウンドで対戦し、8-3と下したのが唯一の対戦。「野球自体はオーソドックス。力で勝負してくると思う」。21日(日本時間22日)もイスラエル-チェコ戦を視察予定で伏兵を研究し尽くす。