昨年8月から全面的な改修に入っていた東大野球部の合宿所「一誠寮」(東京都文京区)が、このほど完成。14日から部員の入寮が始まった。55年ぶりの全面改修で、総工費約2億円は金融機関から借り入れた。野球部関係者によると、大学の運動部が億単位の借金を抱えるのは異例という。寮生が20年かけて返済する。

一誠寮は1937年(昭12)、東大本郷キャンパスにほど近い住宅街に建てられた。木造2階建て、赤い瓦屋根の洋館だったという。改修前の建物は65年に建て替えられた。96年に部分補修を施したものの、築50年を超え、老朽化が著しく、耐震基準も満たしていない。4年ほど前から、OB会を中心に一誠寮の今後について議論を始めていた。

当初は建て直しを検討したが、費用は3億円と高額な上、現在の都市計画では土地利用上の制約も多く断念。8000万円ほどで済む補修は、すぐにさらなる補修が必要になりそう。結果、柱など建物の■体(くたい)を残して全面的に改修する手法を採用した。

総工費は、東京五輪や震災復興などの影響による建設工事費の高騰が災いして2億円にのぼった。これまで寮や東大球場の建て替えや補修は、約750人いるOBや企業からの寄付でまかなってきた。だが、現在の経済状況で、億単位の寄付を集めるのは容易ではない。そこで、一誠寮の土地を所有する東大運動会(東大の運動部各部が所属する一般財団法人)と協議し、土地を担保に金融機関から融資を受けた。閑静な文教地区にあって土地の担保価値は高く、低金利が続く状況も有利に働いた。

返済は、受益者負担の原則に従い、寮生の負担とする。寮費は、これまでの2万3000円から5万円に(水道光熱費など込み)。近隣の相場に倣ったという。監督室、事務室を徒歩圏内にある東大球場内に移して、居室を増やし、入寮者は25人から35人になり、1人あたりの負担軽減が図られた。

野球部OB会「一誠会」の岩城正和会長(72年卒)は「創部101年目の今年から次の100年に向かって、この寮で研さんを積み、頑張って欲しい」と話す。施工を担当したミサワリフォームネクストの出山秀男社長も「この寮で、学生時代の素晴らしい思い出をたくさん作ってください」とエールを送っている。

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◆一誠寮の伝統 戦火を免れた一誠寮には終戦まで野球用具が保管され、戦後の野球部復活の拠点となった。創部当初のスコアブックや終戦直後のノートなど、貴重な資料も保管されてきた。初代野球部長を務めた長与又郎総長が揮毫(きごう)した「一誠寮」の額も貴重。「誠」の「ノ」の一画が欠けており、「優勝したら書き足そう」と長与総長が言ったと伝えられる。誰の目にもつくところにかけられ、部員の悲願達成の思いをかき立てる。改修前は食堂に掲げられていたが、新しくなった一誠寮では、玄関から入ってすぐ正面に掲げられている。