#開幕を待つファンへ。日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(49)と和田一浩氏(47)が“打撃の感覚”を語り合う、ぶっちゃけトークの後編は右投げ右打ちと、右投げ左打ちに焦点を当てます。キーワードは“後ろの手”。ベテラン遊軍・小島信行記者が加わっての深いクロストーク。今回も、指導者の方必見の内容です!
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和田 「打撃」についてのトーク、続きがあってよかったですよ。
宮本 あれ(4月17日付日刊スポーツ紙面)はひどいよな。途中の段階で「おしまい」だもんな(笑い)。
小島記者 すみません。マニアックすぎてニーズがあるか心配だったし、限りがある行数に合わせると、中途半端で意味が分からなくなってしまうんで…。
宮本 ベンちゃん(和田の愛称)は、バッティングの話になると、執念を感じる。プロで30歳を過ぎてから1900本以上のヒットを打った執念だよなぁ。
和田 若い時、考えてやっていなかったから…。考えてやっていれば、もっと打てたって後悔してるんです。ただバットを振っているだけだった(笑い)。
小島 ただバットを振っているだけでプロになれたのはすごいですね。
宮本 俺なんか、必死にやり続けて、やっとプロに入れたって感じ。でも小さい時からもっと正しく教えてくれる人がいたら、もっと打てたかな、って思う。今の知識で、もう1度現役をやりたかったなぁ。多分、もっとホームランは増えてたよ。
和田 その気持ちは僕も同じですよ。
小島 一流だった選手は引退した後にみんな同じことを言いますよね。巨人の原監督も同じことを言っていた。向上心のある人は、辞めてからも一生懸命考えて「もっと打てたのに…」って思うんじゃないですか。
宮本 若い頃、古田(敦也)さんとか池山(隆寛)さんがバッティングの話をすると、こっそり近づいてダンボのように耳を大きくして聞き耳を立ててた。「強い打球を打つためには、ボールの軌道に合わせてバットを入れていく」とか。当時は上からたたきつけると教わってきたからビックリ。「極端に言えば、真上からボールが来るなら、上を向いて打った方が強い打球になる」って話していて「何だそれ! 俺が教わってきたバッティングと違うぞ。一流の人たちって、そんなふうに考えているんだ」って衝撃だった。
和田 僕は20代後半に「このままじゃクビだ」と焦り始めてから考えるようになった。でも、最初はどうやって練習していいかすら分からない。わらにもすがりたいって気持ち。その時は金森(栄治)さんが打撃コーチで教えてくれた。それがなかったら、今の僕はなかった。
小島 では一般的にどんなことを考えてやればいいんですか?
和田 人によって違いますね。
小島 そんなキッパリ言われたら、話が終わっちゃうじゃないですか! 前回までの話を総合すると、まずは力をつけないと、正しいスイングもできないし、強い打球は打てない。強い打球を打つためにはバットのヘッドを内側から出す。バットを内側から出すスイングは打ち損じた打球がフライになりやすい。でも、フライを恐れずに長打狙いで打つ。それが“フライボール革命”。日本のアマチュアの指導者は「ゴロを打て」が主流だから、バットが外側から入りやすくなる。そこを考えて、自分に合ったスイングを見つけなさい。こんな流れですよね?
宮本 その通り! ここまで長々と話してきたけど、そんな短く説明されると拍子抜けしちゃうなぁ。
小島 では、細かい質問をします。右投げ右打ちと、右投げ左打ちの指導は違いますか?
和田 基本は同じ。でもバッティングは後ろの手が大事。右投げ左打ちは利き手が前の腕だから、後ろの腕を器用に使えないんですよ。そこを考えて教えないと、グチャグチャになる。人によって違うって言ったのは、利き手も違うし、目指すべきタイプも違う。それによって、どうやって考えてやるかも違ってくる。
宮本 でも、同じ右利きでも、右打ちと左打ちは大きく違うよな。右利きに、どちらか片方の手で打ってみてって言ったら、ほとんどが右手で打つ。後ろの手が大事だから、後ろの手を使う打ち方を教えようとしても、右投げ左打ちは理解できないもん。
小島 でも日本のいい打者には右投げ左打ちが多くないですか? 高校や大学の全日本のメンバー選考でも、候補者選びの段階で名前が挙がってくるのは左打ちが多い。だから例年、右打者選びに苦労しています。小中学生の比率で考えれば、圧倒的に右投げ右打ちが多いのに…。比率的に考えるとおかしいですよね。
和田 そこなんですよ。小さい時から「ゴロを打て」って教わると、右打者は右手を間違って使うようになる。右肘がヘソの前に入るように使わないといけないのに、ゴロを打とうとするとそれが出来ない。そうなると、バットのヘッドが後ろに残りにくくなって、外側から入るようになっちゃう。
宮本 右打者でそのタイプは、めちゃめちゃ多いよな。逆に右投げ左打ちは、前の腕が利き手だから、ゴロを打てと指導されても、それほどヘッドが外側から出ない。左打ちで右腕1本で振ってみると分かると思うけど、ヘッドが後ろに落ちるみたいに使うから悪影響は受けにくい。日本球界は「ゴロ打て文化」が強いから、右投げ右打ちより、右投げ左打ちが上のレベルまで生き残っていく確率が上がるんだと思う。
小島 メジャーの長距離砲は、右投げ右打ちが多い。左の長距離ヒッターもオルティス、ボンズみたいな左投げ左打ちが多い。王(貞治)さんだってそうです。右投げ左打ちで、パッと名前が挙がる好打者はハーパー、イエリチでしょうか。日本だと大砲だった松井(秀喜)も、メジャーでは勝負強い中距離砲というイメージ。そんなにメジャー通でもないんですけど。
和田 バッティングを極めようと思うなら、後ろの手でボールを押し込むように打てないとダメ。その方がミートポイントも近くにできる。日本人選手でいえば、(右投げ右打ちの)浅村(楽天)や鈴木誠也(広島)は素晴らしい打ち方をしている。
宮本 ベンちゃんは右投げ左打ちの打者をあんまり褒めないもんな(笑い)。そういえば高校の時、立浪(和義)さんからタオルを渡されて「右手で肘抜きでパンと鳴らしてみろ」と言われてやったんですよ。あれって右肘を体の内側に入れてやるでしょ? そしたら「右投げ左打ちは、これを左腕でやらないといけない。難しいんだよな」って。俺なんか頭の中が「?」だったけど、高校の時に利き手じゃない左腕の使い方に気が付くなんて、やっぱりあの人は天才だったんだなぁ。
和田 右投げ左打ちでいえば、金本(知憲)さんや(高橋)由伸も「左腕が大事」って強化していましたよ。筒香もそうなんでしょ?
小島 やっぱり、いい右投げ左打ちの打者は、そういうところに気が付くんでしょうね。小中学生には分からない。だから「ゴロ打て指導」で右打者は育たないんでしょう。そして、生き残ってプロになった右投げ左打ちの選手は、打撃を追求していくうちに後ろの手が大事って気が付くんでしょうね。
宮本 でも「フライボール革命」とかの影響もあるし、今はYouTubeでも勉強できる。いろいろな理論もあるし、プロのすごいバッターの打撃理論も、その気になればたくさん見られる。
和田 そうですよね。これから日本も右投げ右打ちのすごいバッターがいっぱい出てくると思いますよ。